第二十七話 しぶとい奴ら

 みんなのいえのすぐ外で、シャアラが膝をついて地面をにらみつけていた。
 担当していた畑仕事から帰ってきたルナが不思議そうに声をかけた。
「どうしたの? シャアラ」
 顔をあげたシャアラは今にも泣き出しそうな風情だった。
「ルナぁ」
「ど、どうしたの!?」
 慌てて駆け寄ると、シャアラがすがりついてきた。
「眼鏡が見あたらないの」
「ええ!」
 改めて見れば確かにシャアラは眼鏡をかけていない。
 眼鏡をかけていないとシャアラはほとんど何も見えないはずだ。こんなところで眼鏡が無くなったりしても、それを買い直すことなどできるわけがない、のに。
「大変じゃない! どこに置いたか覚えてないの?」
「顔を洗おうと思って、はずしてすぐ横に置いたはずなのに、気がついたらなくて」
 答えるシャアラの声はほとんど泣き声だ。
 ルナはあたりを見回しながらシャアラの背をなでた。
「大丈夫、私も一緒に探すから。きっとすぐ見つかるわよ。落ち着いて、ね?」
「うん」
 涙をぬぐったシャアラと二人、はいつくばって眼鏡を探す。
 シャアラが顔を洗ったという岸辺を中心にそれこそ必死の捜索を続けたが、なかなか眼鏡は出てこなかった。
「うーん」
 一つうなりながらルナは立ち上がってのびをした。まだ捜し物は見つかっていないが、とりあえず痛む腰を休ませようとしたのだ。
「ん?」
 ふとみんなのいえの方を見やると、果物を抱えたカオルが見えた。
 今日は果物調達係だった彼は、いつものようにちゃんと役目を果たしたようだった。
 いつもならまっすぐみんなのいえに入って食料庫に果物を置きに行く彼が、どういうわけかこちらに向かってくる。
 どうしたんだろうと思いながらも、ルナはすぐ近くまで歩いてきたカオルに声をかけた。
「おかえり、カオル。おいしそうな果物ね、どこで見つけたの?」
 するとカオルは顔をあげて、
「テーブルの上だ」
 と、短く言った。そして言い終えると、すぐさまくるりと向きを変えてすたすたとみんなのいえへ帰って行く。
「え?」
 どうして果物がテーブルの上でとれるのか。
 顔中を疑問符だらけにして、テーブルに歩み寄ったルナは目を見開いた。
「あったぁ!」
 明るい声をあげて、まだ地面とのにらめっこを続けているシャアラを呼ぶ。
「シャアラー、眼鏡、あった! あったよー」
「ほんと?」
「うん、ほらあ」
 弾んだ声と一緒に眼鏡をシャアラに手渡すと、シャアラがほっと息をついた。
「よかったあ」
 安心したせいで目尻に少し涙が浮かんでいるが、口元は笑っている。シャアラの笑顔にルナもほっと息をついた。
「よかったね」
 二人してにこにこと、眼鏡の無事を喜び合う。
 そこへぽてぽてとチャコがやってきた。
「どないしたんや、二人とも。なんや盛り上がって」
「あ、チャコ。実はね」
 ルナが事情を説明しようとしたが、チャコがそれを遮った。
「そうや、シャアラ。眼鏡、あんなとこにほっといたらあかんで。壊れてもここじゃ修理なんてできんのやから。ま、踏んだりせえへんように、うちがテーブルの上に避難させといたけどな」
『チャコだったの!?』
 ルナとシャアラの声が仲良く重なった。

 苦労話をチャコに一通りした後で、ルナはふと思った。
 テーブルはルナ達のいた所から見て、みんなのいえの反対方向にある。
 カオルが歩いてきたのは、みんなのいえの向こうから。
 つまり、カオルはテーブルには全く近づいていないのだ、が。
 いったいどの辺りでテーブルの上の眼鏡を見つけたんだろう。
 ルナは一人首をひねった。

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