第二十七話 しぶとい奴ら

 今日はベルとカオルが狩り当番だった。
 いや、今日もと言うべきかもしれない。この二人に任せておくのが一番効率的だともう誰もが分かっているので、二人が狩りに出かけるのはもはや日常の風景だった。
 しかし、そんな二人でも獲物のない日はある。
 今日はどうもそんな日だった。
 朝から出かけてもう昼過ぎだが、二人の手には何の収穫もない。
 何しろ、まったく獲物の姿を見ないのだ。森を、平原を、行けども行けども、トビハネ一匹鳥一羽見あたらない。狩る対象がいないのでは、最強コンビといえども打つ手がなかった。
 見晴らしのいい丘でベルがため息をついた。
「今日は駄目みたいだね」
 今のところ食料の備蓄に余裕はあるが、やはり収穫ゼロで帰るのは気が引ける。たとえ両手一杯の獲物を抱えて帰ることの方が多いと言っても、そこはそれ。みんなの期待を裏切るのは胸が痛い。
 だがしかし。何もいないのではどうがんばっても狩りにならない。
「今日はもう帰ろうか。ここからみんなのいえまでは結構あるしね」
 あきらめのため息をもう一つついて、そう提案したベルだったが、続いて首をかしげることになった。隣のカオルが返事をしなかったからだ。
 カオルは極端な無口だが、話しかけられて無視するようなことは滅多にしない。しゃべらないにしてもいつもなら何らかの反応がある。
 どうしたのかとカオルの顔をのぞきこめば、やたら真剣な目をして遠くを見つめていた。
「カオル?」
 何を見ているのかとベルもその視線をたどって目を凝らしたが、広がる草原とその向こうに広がる森しか見えない。
 額の上に手をあててベルが必死でカオルの見ているものを探していると、カオルがようやく口を開いた。
「ベルはここにいてくれ」
「え? カオルはどうするんだい?」
 額から手をはずして問いかけると、カオルは石槍を握り直し、それで先ほど見ていた方向を指した。
「向こうにトビハネがいる。ここまで追い込んでくる」
「え……?」
 ベルが聞き返した時にはカオルはもう駆けだしている。
 緑の草原を黒い影が行く。見る間に遠ざかっていくそれを、ベルは呆然と見送った。
「トビハネ……? どこに……?」

前のページに戻る/続く

目次に戻る