無人惑星サヴァイヴ感想

第九話 きっと仲良く暮らせる

前回までのあらすじ。
 修学旅行で遭難した七人の少年少女+猫型ロボットは流れ着いた惑星で次々と困難に出遭う。危険な動植物に脅かされ、水と食料の確保もままならない。しかも救助はいつ来るとも知れず、コロニーと連絡をとる手段すらない。絶望的な状況の中、それでも彼らはリーダーメノリの確かな判断と卓越した指導力の下、協力して困難を乗り越えていく。しかしささいな諍いからリーダーを決め直そうという提案がなされ、結果としてメノリはリーダーの座を追われることになってしまう。常にリーダーとしての最善を尽くしてきたメノリとってこれは大きな衝撃であった。自分に何が足りないというのか。納得がいかないながらも七人のうち四人が賛成するに至ってはその決定を覆すことはできない。屈辱と失望に耐えながらメノリはリーダーの交代を承諾するのだった……。

 と、いうわけで(いいのかそれで)今回はリーダー交代後最初の話ということになるわけですので、リーダーを下ろされたメノリ様の動向に要注目ですよ!(私がメノリ様に注目しなかったことなんかないけど)。もちろん新リーダールナにも注目。ルナとメノリのリーダーとしての方向の違いというのがよくわかります。それ以外のメンバーそれぞれの役割とか立ち位置とかもこの回はくっきりはっきり出ているし、言葉のやり取りなどもテンポ良く、何回見ても楽しい回です。やっぱりこうしてみんなで色々サヴァイヴァル頑張ってる頃が面白かったな……(遠い目)

 冒頭はシンゴとハワードのケンカから。水くみを代わってもらったシンゴにハワードは「うまくやったな」なんて余計な一言。カオルに「さぼるつもりなんだろう」と言ったこともあるし、人が楽をしそうなときには敏感なハワード。そのくせ自分のことはいつも棚上げするのだから、この頃のハワードは本当にしょうのないお坊ちゃんです。
「僕は狩りの方が向いているからな」
 ベルに水くみ押しつけていると言われてもこんなふうに悪びれないしねえ。シンゴじゃなくても腹が立つというものです。

 いつまでたっても収まらない二人の言い争いに我慢できなくなったのはシャアラ。泣き出したシャアラにはさすがに二人もバツが悪そうな顔をします。少し離れた所にいるカオルも困った顔。無表情なようでけっこう色々な顔してますね、カオルも。
 とはいえシャアラの反応もヒステリーっぽい過剰なものなので、場の雰囲気がよくなったわけではありません。
「ほんとにどうしたの?」
 と、イライラしっぱなしのみんなにルナも困惑。

 ここで我らがメノリ様が登場なさいます。
 水は確保できたし食料マップも整ったが、水くみと食料集めが大変なことは変わらない。その上シャトル暮らしでは疲れを取る暇もない。だからみんながイライラするのも無理はないのだと、そうメノリは言います。
 さすがにメノリ様。現状を非常に的確かつ正確に把握しています。目の前の諍いだけではなく、これまでに解決できた問題とこれからクリアしていかなければならない問題がきちんと分析できている。これまで皆を導いてきたメノリのリーダーとしての高い資質がここでも発揮されているわけです。
 ところが、メノリの言葉がここで終わってしまうのがこれまでと違うところ。今までなら問題の提起だけではなく、それに対してどうしていくのかまでメノリは発言していました。常に細かいところまで行き届いた完璧な指示を出していたのに、今回はどうするのかということには全く触れません。リーダーはもうメノリではないから、なのでしょうね。メノリらしい線の引き方です。
「せやかて食べもん集めんわけにはいかへんし――」
 メノリが何にも言わないのでみんなして頭を抱えます。

「やっぱり引っ越そう」
 ここで声をあげたのが新リーダールナ。水も食料も豊富なフェアリーレイクなら生活が楽になるはずだと事態の解決策を提示します。
 あそこには怪物やオオトカゲがいると言われれば大いなる木がある、木の上に家を作るのは簡単ではないと言われればそれでも調べてみる価値はあると、前向きに話を進めるルナ。最初からできないと決めつけるのではなく、できるように考えてやっていこうというのが新リーダールナのやり方のようです。

 で、このときのメノリの表情が私の今回のチェックポイントでした。複雑なメノリの心中がわかるような気がしたのです。
 メノリは私は賛同しかねるという難しい顔をしています。メノリは完璧主義ですからね。様々な問題を想定した上で最善と思える方法を選択し、行動はその後でするというタイプのメノリには、ルナのやり方はあぶなっかしく見えるんだろうなと。もう少しよく考えろと本当は言いたいんじゃないかと思うんですよ。でも言わないのはリーダーは自分ではないと冷静に自分の立場をわきまえているから。
 けれど一方で、その方法でリーダーが務まるならやってみろと突き放すというか挑発するような気分もあると思うんですよね。ひょっとしたらこっちの気持ちの方が大きいかも。リーダーをやめさせられて、メノリが面白くないのは確かだし。でもハワードみたいにすねたりなんてメノリにはできないから、余計に内にくすぶってるんじゃないでしょうか。わめきちらしたりなんかしたら、かえって余計に自己嫌悪に陥りそうなメノリ様。そんなみっともないことをした自分を自分で許せなくなるでしょう。見れば見るほどメノリって窮屈な生き方をしてるわ……。

 それはさておき他のメンバーの反応も面白かったです。

 木の上ならオオトカゲも来られないとルナの提案に一番に反応したのがハワード。ハワードは深く考えない子なので(笑)、楽しそうだったり楽そうだったりすることならすぐ賛成。辛そうならすぐ反対と非常にわかりやすい。
 勢い込むハワードにそう簡単にはいかへんと釘をさすのはチャコでした。きっとこれまでも、考える前に走り出しがちなルナにブレーキをかける役目を果たしてきたのでしょう。
 どう? というルナに、いいんじゃないのとはっきり賛成を示したのがシンゴ。シャアラとベルは反対もしないけど全面的に賛成するわけでもなく、黙ったまま曖昧な態度。カオルは不言実行(笑)。みんなの性格の違いがよくわかりますねー。

 さて引き続きメノリ様中心にお送りします。 

 カオルを置いてみんなで向かった調査の結果、大いなる木は家建てるのに必要な強度を備えていることがわかりました。
 即座に「決まりだな!」と明るいハワード。やっぱりあんまり考えない上に回りの顔色を気にしないせいか反応が速いですね。しかも僕の部屋はここがいいと自分の要求ばかり。
 そんな風に盛り上がっているみんなに、しかしメノリが水を差します。
 木の上に家を建てるのは物理的に可能なのはわかった。またあの高さがあれば怪物もオオトカゲも防げるだろう。けれどシャトルには今までの実績がある。未知の危険(より大きな怪物)に遭遇する可能性がある以上、より確実に安全が保証されるシャトルに残るべきだ。
 と相変わらず整然とした理論を述べるメノリ様。このままだとノリだけで家が建っちゃいそうで、さすがに黙ってはいられなくなったようです。「怪物が出ても僕が倒す」と言うハワードにも「みんなの命がかかっているのにいいかげんなことを言うな」と厳しい言葉。これはきっとルナにも言いたい事なんでしょう。みんなの命を背負っているのだから、いいかげんな判断はリーダーには許されないんだぞ、と。

 理詰めで反対するメノリに、反発したハワード以外みな意気消沈。
 ルナの反論はこうでした。確かに安全の面ではシャトルで暮らす方がいいかもしれないが、ストレスが大きすぎると。安全面での不安を差し引いてもより快適に暮らせる方が、要するにみんなの気持ちが楽になる方が重要だというのがルナの考えのようです。
 それに対するメノリのさらなる反論は無し。「決めるのはリーダーのお前だ」と決断をルナに迫ります。反対意見を述べたのもルナにリーダーとしての自覚を促すためにあえてしたことで、出しゃばるつもりはなく、決断はあくまでルナにさせるということでしょう。メノリの理性の部分ではね。でもやっぱりルナを試してもいるんでしょう。お前に私以上のリーダーが務まるのかと、メノリの表情がそう言っているように見えてしまいます。

 これ以降もメノリの立ち位置は変わりません。
 設計図を見てみんながはしゃいでも、いえづくりの作業が始まっても、ただ見ているだけ。リーダーはルナなのだから、そしてみんなも従っているのだから、自分もそうするべきなのだということはメノリもわかっているのでしょう。けれどルナがリーダーとして優れているとは思えないので、積極的に動く気にはなれないんでしょうね。自分がなぜリーダーから下ろされたのか、全然わからないから辛い。
 例えば、いえづくりの作業を開始するとき、ルナは「力仕事で大変だけど、頑張ろう」と言います。メノリなら作業についての具体的な指示、もしくは注意事項を言うでしょう。だからメノリからすれば、ルナの言動はリーダーとして足りない部分が多すぎるとしか思えないんですね。
 土台の木を切って運んで「木を切るのがこんなに大変だなんて思わなかった」とルナが言ったときも、メノリは相当腹立たしかったでしょう。そんなこともわからないで実際の作業に移る馬鹿がいるかと。ハワードが土台を壊したときもそうです。せっかく頑張ったのにとみんながしょげてても、メノリは冷たく「やはりシャトルに住むしかない」と言います。メノリには当然の結果にしか見えないので、「それ見たことか」というくらいの気分だったんじゃないでしょうか。
 物理的にいえが建つということと、実際に建てるということは全然違うことです。実際の作業に必要な材料は確保できるのか、また必要な技術が自分たちにあるのか。そういう見通しが甘いままで作業を始めたのだから、失敗するのは当たり前。結果として一日の労働が無駄になり仲間達を落胆させてしまった。これはリーダーとしてあるまじき失敗です。

 結局この時点では、メノリはルナをリーダーとして認められない。なぜ自分がリーダーを下ろされたのかわからない。メノリの表情は固いままですが、胸の内は相当ぐるぐるしてるんじゃないかと。
 やっぱりリーダーは私がするべきではないのかと、そう思いながら浜に戻ってみれば、シャトルが壊れていてさあ大変。そんな感じで次回へ続く。


 え? 九話ってそんな話だっけ? と思った貴方。その感覚は正しいです。
 基本的にこの回ってかなり明るくて楽しいんですよね。萌えどころも突っ込みどころも多い。
 カオルが黙々とのこぎり作っている姿にときめいたり、いえを建てられそうだということになってベルと視線を合わせたシャアラにやっぱりめんこいなあとでれでれしたり、態度がくだけてきたハワードを微笑ましく思っていたらとんでもないことしでかした上に反省のないその様子に腹を立ててみたり、いえづくりの作業中にカップリングに萌えてみたりと、うきうき見られる回です。
 なのにメノリに集中してみたらこんなに痛々しい感想になってしまいました。
 このころのメノリがいかに孤独かということですね。
 メノリ様、おいたわしい(結局そんな結論かい!)

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