無人惑星サヴァイヴ感想

第六話 僕らはゲームをしてるんじゃない

 みなさまお元気ですか。メノリ様ファンクラブ会報誌No.6をお届けします。

 さて、今回もメノリ様は輝いていらっしゃいます。
 水と食料だけではなく、危険な獣を避けるための火も必要だということに気づかれるそのご慧眼。また、チーム分けもお見事です。機動力のあるルナと目を離したら何をするかわからないハワードをご自分と同じ水捜索班に、知識のあるベルと運動の苦手なシャアラを火おこし班に、残った食料調達班にきちんと戦闘能力のあるカオルを入れておく等、いつもながら細かなところまで行き届いたご配慮。つくづく感服つかまつります。
 ですが、メノリ様。一言だけ言わせて頂きとうございます。メノリ様に悪気はないということは重々承知しております。が、
「冥王星で(火おこしの)経験があるんじゃないか?」
 これだけはいかがなものかと。
 相手が穏和なベル氏でなければ、紛擾の元となっていたやも知れませぬ。

 ……ほんと怒ってもいいと思うよ、ベル。
 この宇宙時代に火おこしの経験がある人って、そういう研究をしている人かよっぽど変わった趣味をしている人くらいだと思いますが。火おこしの経験があると思われるくらい冥王星って田舎だと認識されてるのねえ。ハワード達みたいにいじめ目的で言うならともかく、真面目なメノリが悪気もなくそんなこと言うなんて。悪気がないだけに本気でそう思われてる分、冥王星出身者としては泣けてくるんじゃないのかしら。ベル、なんかびみょーな顔してるし、言いたいこと色々飲み込んだんだろうなあ。

 これまでの感想で、冥王星がこんな田舎扱いされているのが不思議だと散々書いてきましたが、なんかようやくわかったような気がします。
 そもそも火星の開発と冥王星の開発を同レベルで考えたのが間違いだったということにようやく思い至りました。
 地球に人が住めなくなったという状況で、まず火星の開発に着手するのは妥当な流れです。一番近い惑星ですからね。その次はおそらく木星か金星です。次に近いということもそうですが、ロカA2からもこの二つには定期便が出ていましたし、早い段階で開発が行われたのだと思われます。
 しかし、その次は太陽系の惑星ではなかったのかもしれません。そのころには反重力とワープ航法が実用化されているのでしょうし、太陽系でなくとも、もっと開発しやすい星を探してくればいいのですから。水星とか土星の開発がどうなったのかはわかりませんが、冥王星に関してはその開発が後回しにされたんじゃないかと、そのことにやっと気づきました。
 同じ太陽系ということで、水星から冥王星まで全ての太陽系惑星が火星と同じく宇宙時代初期に開発されたのだと、何の疑いもなく思ってましたけど、よく考えたら火星と冥王星ではその環境に天と地ほど差がありましたね。
 コロニー建設にしろ、資源の開拓にしろ、何らかの開発を行う場合、一番に問題となってくるのはエネルギーをどうやって調達するか、でしょう。火星なら多分太陽光を使ったんだと思います。大気に遮られない宇宙空間なら、地球上よりずっと効率よく太陽光エネルギーが使えるし、火星の位置なら充分太陽光に頼ることができる。が、火星より外の惑星となると、いくら大気がないといっても、太陽光をエネルギー源として使うには、いささか遠すぎますよね。木星はそれでも多分大丈夫です。木星の成分のほとんどが水素とヘリウムということなので、それを使ったんじゃないですかね。おそらく木星のコロニーというのは、木星そのものに作ったのではなく、木星の衛星のどれかに作ったのだと思われます。一時間に二本もシャトルが出ていることからすると、コロニーのある衛星は一つじゃないのかも。(金星はどうだろう。太陽光は充分だけど、熱すぎてコロニーなんて作れないんじゃないのかなあ。コロニーじゃなくて、金星付近に宇宙ステーションを作ったのかな? どっちにしろ熱いと思うが)
 でも冥王星はね。太陽光には頼れないし、木星みたいにガスで出来てるわけじゃないし。そもそも冥王星の豊かな資源ってのは多分レアメタル。冥王星に何があるかは現在まだよくわかってないので、想像するしかないのですが、石油とか石炭なわけはないから、鉱物でしょうねえ。だとすると、火星や木星みたいにはエネルギーの現地調達が無理って事になる。
 だからエネルギー源にしろ、開発に必要な機材にしろ、全部外から運ばなきゃならない。その上、冥王星は遠い。ワープ航法があるっていっても、物資の大量輸送に向いた方法じゃないと思うし。宇宙時代初期にはまず人の住める場所と手軽な資源調達地の確保が優先されたため、冥王星みたいに手間のかかりそうな星は長い間ほっとかれた。で、今になってようやく冥王星のようなめんどくさい場所に手が出せる余裕が人類に出てきたので、開発が始まった。ベルのお父さんはそれに参加したってことなんじゃないかと。
 だから、冥王星はある意味忘れられた土地。太陽系惑星なので一応存在と名前は知られているけど、未開発ということでなんだか田舎臭いイメージが一般に浸透してしまっていた。開発が始まったとはいえ、未だ発展途上でろくなものがないのもまた事実。そのためベルもソリア学園に入るのが2年も遅れてしまったくらいである。それゆえまだ田舎イメージは消え去らず、メノリの火おこし発言が飛び出すようなことになっているということで、ファイナルアンサー! どうすか、みのさん!

 以上。サヴァイヴの宇宙開発史に関する一考察でした。
 えらそーに語ってますが、私宇宙に関する知識はさっぱりでございます。これはうちの設定ということでどうぞよろしく。

 閑話休題。

 メノリの指示に従って動くことになるみんなですが、この話のカオルは無愛想ですね。一応セリフはありますが、シンゴとチャコと一緒に動けと言われてものすごい不満げ。これは足手まといだと思っているからなのかしら。ベルならともかく、この二人とではろくなことができないって。
 それなのに、逆にチャコからカオルの方が足手まといみたいなこと言われて、かなり気分を害しているのかしら。その上ハワードにはさぼるつもりとか言われるし。その様子を見ているベルの額に浮かんだ冷や汗が気になるわ(笑)。それ以上言ったら駄目だよチャコ、ハワードって、はらはら見ていたのかしら。
 
 頭脳作戦を敢行することになったチャコとシンゴですが、うまくいきません。ほへーってへばるシンゴが可愛いなあ。
 カオルの方は見事レモンのような果物ゲット。前回のベルの助言のおかげでしょうか。
 で、カオルは動物の骨を見かけて危険な動物の存在に気づき、戻ってくるのですが、出会ったシンゴとチャコに危ないよって言わないのがちょっといじわる。この先には何もないから行くなというのは一応忠告だったんでしょうが。
 聞く耳持たないチャコを止めないし、「本当に何もなかったの?」って訊くシンゴにも結局「行きたければ行け」だし。このときシンゴは果物も危険なものも何もなかったの? って訊いているようにも見えるのになあ。海蛇や人食い植物から仲間を守ってくれたカオルらしくないような。チャコに相当腹をたてていたのか(笑)。
 骨だけで危険な動物そのものを見たわけじゃないし、それくらい自分たちで気づいて戻ってこいってことかな。次の七話で「自分のことは自分でしろ」ってセリフもあるし、このときのカオルはそこまでみんなの面倒をみる気がなかったのかもしれないですね。何があっても自己責任と思ってるのかも。その程度のこともわからないような奴らと一緒にやってられるかって気分もあるかも? 何しろエリート様ですからね。

 カオルの忠告を聞かなかった二人はやっぱり果物に出会えません。ここで魚を捕りに行こうよってチャコを説得するシンゴにものすごく感心しました。説得ですよ? この時点ではメノリすら持っていない高等技術(笑)。
 やっぱりカオルの言うこと聞けばよかったのにってチャコを責めるのではなく、果物が駄目なら魚を捕ろうと提案をし、魚なんて食べられないと拒否されれば、魚があればチャコの果物の取り分が増えるよって説得をする。上から押さえつけるような説得じゃないことにひたすら感心。シンゴってほんといい子だ。この中では年下だけど弟と妹を持つお兄ちゃんとしての経験がものを言ってるということでしょう。
 
 お兄ちゃんと言えばベルとシャアラのコンビもお兄ちゃんと妹のよう。まずこれをしてくれる? 次はこうしてくれる? っていうベルの指示の出し方が微笑ましい。指示というよりは優しく指導してくれているって感じ。
 タイトルにもなっている「ゲームをしてるんじゃない」発言のときはやっぱりかっこいいですね。これはやっぱりお父さんの指導のおかげじゃないでしょうか。ベルのお父さんは自然の大切さと同時に自然の厳しさもちゃんと教えてくれていたのでしょう。
 シャアラにも、過程より結果が求められる今の状況の厳しさがちゃんと伝わったようです。そしてその厳しさに気づいてめげるのではなく、ちゃんと立ち向かっていこうとするシャアラ。前回でルナの強さをちゃんとわけてもらったんだね。

 水捜索班となった三人ですが、ハワードは完全にお荷物ですね。さぼりたいのはお前だろうと言われてむきになるところとか、トビハネに怯えて腰をぬかすところとか、前話まで残っていたかっこつけはもうかけらも見えません。トビハネを追いかけるときも、トカゲから逃げるときも、ルナとメノリの方が走るの早いし体力もないのかな。メノリがハワードにカッターを持たせようとはしなかったことといい、もう完全にお子ちゃま扱いです。パグゥに怯えて発した二度目の「パパァー」もかわいいかわいい。

 女の子二人はもうたくましいたくましい。

 メノリはなんと言っても「ルナ、追え! 食料だ!」というセリフ。ペットも狩りの対象もロボットで、太陽も空も人工物というコロニー育ちなのに、トビハネを見てすぐ食料と連想できるってのがすごい。一話でルナの家にあった調理機からすると、コロニーの人は包丁や鍋を使った料理なんてほとんどしなさそうだし、メノリなんてお嬢様だからますます台所と縁が薄そうなのに。ルナだって、メノリにそう言われてやっと食料だと認識してるというのに。さすがです。メノリ様。
 ルナはトカゲからハワードを守るところですね。大きな石をトカゲの口に! 守る対象がいるときのルナの強さはこんな初期から発揮されて、最後までずっと続きますね。カオルが強すぎるので目立たないけど、ルナの戦闘能力も相当高いです。
 で、二人のかっこよさが同時に光るのが、 「あの山に登ってから帰る! それしかない!」 だね!
 いやいやいや、雲かかってるってば、その山。しかも山のふもとまでもそうとうありそうだし。でもためらいなくその方法を支持するルナ。「たとえ一人になっても、絶対に仲間の所へ戻らなければならない」というメノリのセリフも動じず受け入れるルナ。体力面でも精神面でも男前すぎますね。二人とも。
 そんなの冗談じゃないって言うハワードの反応の方が普通なんだけどね。
 まあ、ハワード、大丈夫だよ。高台から湖を見つけたとき、君はたいそうはしゃいでいたじゃないか。あそこから湖までの距離も相当あるように見えたけど、君はちゃんとたどりついた。あの山もきっと登れるさ〜(笑)。
 
 メノリもルナも、こうあるべきだという指針をはっきり持っているので、すべきことだと思えばそれがどれほど困難であろうとひるむことも、面倒がることもなくすすんでいくことが出来るのでしょうね。困難に対する対処の仕方が二人は似ているような気がします。ひるまず、前向きかつ建設的に。
 ただ、そうして前へ前へ進むときに、回りの人がついてきているのかということまで気にすることが出来るかどうかが、この時点でのメノリとルナの決定的な違いと言えるかもしれません。

 ところで、メノリ様ファンクラブ会員として、メノリ様名言集を作るとしたら、この回のセリフはどれもはずせないのですが、個人的に一つだけを挙げるとすれば、「お前が昼ご飯にされるぞ!」が好きです。ユーモアのセンスまで持ち合わせている(本人にその気があるかどうかは別として)メノリ様にもうメロメロなのです。

 山に向かって歩きつつ次回に続く。

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