ギャグ書きさんに無造作に10のお題 9.どっちもどっち (サヴァイヴ)
「なあ、メノリ。婚約指輪はどうする?」
「婚約指輪?」
答えたメノリの声はやや険しいものだったが、ハワードはかまわず続けた。メノリの口調の険のあるなしをいちいち気にしていては会話はできない。
向かい合わせになったソファで、きちんとひざを揃え、背筋を伸ばしたメノリとは対照的なだらしない姿勢を直そうともせず、ハワードはお気楽に続けた。
「そう。婚約指輪。ダイヤだと当たり前すぎるような気もするし、誕生石ってのもありきたりだろ? メノリはどういうのがいいんだ?」
メインの石が決まらないとデザインも決められないしなあとハワードはさらに長々と続ける気配を漂わせていたが、メノリの返答はごく短かった。
「不要だ」
「は?」
ぽかんと口を開けたハワードを冷たく一瞥したメノリは、苛立たしげに髪を揺らして続けた。
「だから不要だと言っている。婚約指輪など、今の私には必要ない」
そのままメノリが部屋を出て行こうとするので、ハワードは慌ててソファから立ち上がった。
「ちょっと待てよ。いらないってどういうことだ?」
「そのままの意味だ。今婚約指輪の話などされても意味がない」
「おい、メノリ!」
メノリの姿が消え、静かに閉まったドアの前で、ハワードは荒々しく床を踏みならした。
後日、ハワードは言った。
「まったくメノリはわかってないよ。
婚約指輪をいらないって言うんだぜ?
きっとあのメノリのことだから、結婚したらしまいこむだけのものに
お金と手間をかけるなんて無駄だとか、そんなふうに思ってるんだぜ。
でもそういう問題じゃないだろ?
ぼくはメノリが大事だからこそ、指輪一つでもおろそかにしたくないと思ってるのにさあ。
ほんとメノリはロマンってものがわからないんだよな」
メノリは言った。
「ハワードは全然わかってない。
あいつはまだ正式な結婚の申し込みをしていないんだぞ!?
私に対しても、私の父に対してもだ。
こういうことは本人はもちろん、双方の両親にもきちんと承諾をとるべきだ。
正しい手順もふまずに何が婚約指輪だ。
あいつは世間の常識というものが全然わかっていないんだ」
二人の言い分を聞かされたみんなは思った。
君たち、お似合いだよと。
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