ギャグ書きさんに無造作に10のお題 6.ひっかけ問題 (サヴァイヴ)


 見覚えのある傷を壁に見つけて、シャアラは前を歩くハワードに声をかけた。

「ハワード、ここさっきも通ったんじゃない?」
「なんでわかるんだよ」

 振り向いたハワードが不満そうに口を尖らせたので、シャアラはさっき見つけた傷を指さした。
「ほら、あの傷。さっきも見たわ」
 目を細めて傷を確かめたハワードは、しかしシャアラの言い分を認めなかった。
「違う! あれは同じ道と見せかける罠だ! ひっかかるもんか。絶対、ここはまだ通ってない道だ!」
 ハワードはどうあっても主張を曲げる気はないようだった。

 あとどのくらいで出られるかしら。

 同じ色と高さと幅で続く壁と、たくさんの曲がり角を眺めながら、シャアラはおっとりと首をかしげた。

「みんなはもう出口に着いたかしら」
「着くわけないだろ。ぼくたちが先頭なんだから」
 答えたハワードの言葉は、内容こそ強気だったが声音がそれを裏切っていた。自分たちが随分遅れているということを、そしてまず間違いなく最後尾だということを、本当はハワードもわかっているのだろう。

 サヴァイヴ星から戻っても色々あったし、大変だったが、みんなの友情とつきあいは当然続いている。
 今日は仲間達みんなで遊園地に来ていた。ジェットコースターなど一通り乗り物を楽しんだ後で、迷路に入ろうと言ったのは誰だっただろうか。誰も反対しないので、全員で挑戦することになった。せっかくだから競争しようと言ったのはシンゴだった。それならチーム戦にと言ったのはシャアラだ。シャアラは迷路が苦手だったので、一人でさまようのはちょっと避けたいと思ったのだ。
 シャアラの希望は通り、組み分けはくじで決めた。そうしてそのくじで決まったパートナーと、シャアラは現在このような状況にあるのだった。
 パートナーが自分と同じ方向音痴では、結局さまようことになるのだと、組み分けの時思いつかなかったのは、うかつだったかもしれない。その上パートナーが強情者ときては、、さまよう時間が長くなるだけ、自分一人で挑戦するよりずっと損なのかもしれない。

 でもやっぱり、一人で迷うよりいいわ。

 シャアラは、難しい顔をしているハワード見上げてくすりと笑った。
 すると、その笑みに気づいたハワードは顔をしかめた。本当はハワードも迷っている自分をちょっとかっこ悪いと思っていたのだが、シャアラにもそう思われているのなら、ちょっとどころではなく面白くなかった。
 そこでハワードはふんと鼻をならしながら、これで正しいんだと言った。

「何が?」
 いきなり何を言い出したのかと、シャアラは目を丸くした。ハワードはそんなシャアラに向かって、さらに続けた。

「迷路は迷うのを楽しむ場所なんだから、これでいいんだよ。第一、一番にクリアしちゃったら、後から出てくるやつらをぼーっと待ってなきゃいけないじゃないか。順位なんて下の方が、より長く迷路を楽しめるんだから、これでいいんだ」

 少なからず正論が含まれている論理なのだが、ハワードが言うと屁理屈にしか聞こえない。
 実際屁理屈だ。
 だいたい、競争ということになったとき、誰より張りきっていたのはハワードではないか。絶対一番になってやると、勇んで迷路に飛び込んだというのに、順位が下の方がいいなんてよく言えるものだ。

 けれどシャアラは微笑んでうなずいた。

 迷路は迷うのを楽しむものだと、その言葉に異論はなかった。この状況をシャアラは結構楽しんでいたので、ハワードの主張に反論して、ハワードの強気に水を差すこともないかなと思ったのだ。

「そうね。迷うのも楽しいわ」
「そうだろう?」
 ハワードは我が意を得たりと満足そうにうなずいた。得意げに上を向いた鼻がおかしかったので、シャアラは遠慮なく笑いながらつけたした。
「でも、他のものも楽しみたいし、ちょっとだけ急ぎましょう。あまり他の人を待たなくてもいい順位になれるといいわね」
「そうだな。まだ入ってないところこもあるし、ちょっとだけ急ぐか」
 機嫌良くうなずいたハワードをさりげなく誘導しながら、シャアラは少しだけ足を速めた。あんまり何度も同じところを通っていたので、迷路が苦手なシャアラにも、だいたいの道の見当がついていたのだ。

 そうして二人は他の仲間を待たなくてもいい順位、つまり最下位で迷路をクリアした。
 二人は待たなくてもよかったのだが、他の仲間達は相当待ったらしい。特に、一位でクリアしたメノリ・カオル組の待ち時間はメノリの忍耐力をゆうに越えてしまっていたため、二人は待ち時間がなかった代わりに少しばかりのお説教をくらうはめになったのだった。

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