ギャグ書きさんに無造作に10のお題 5.星に還る (サヴァイヴ)


 お泊まり会をやろうと言い出したのはハワードだった。
 サヴァイヴ星から帰還して数週間。もう寂しさに耐えられなくなったのかと、仲間達は半分呆れつつその誘いに乗った。実のところ、寂しさや物足りなさを感じていたのは、ハワードだけではなかったからだ。
 しかしお泊まり会は全員で、とはならなかった。パジャマパーティなら女の子だけがいいと、シャアラが言いだし、ルナとメノリも同意したので、結局男女別々での開催となった。サヴァイヴでも寝る部屋は別だったのだから、まあ当然の流れではあった。ハワードも別に不満は唱えなかった。
 そうして久しぶりに仲間同士で夜をすごした次の日のこと。

「カオルのパジャマってすごく変わってるんだよ。あれ、なんて言うんだっけ」
「浴衣だ」
 シンゴの問いにカオルが短く答えると、女の子達はみんな目を丸くした。
「浴衣なんて、私見たことがないわ」
 ルナが言うと、シャアラもうなずいた。
「わたしも。本で読んだことはあるけど」
「着物なら、父の客人が着ているのを見たことがある。あれと似ているのだろう? あんなものを着て寝たら苦しくないのか?」
 メノリが首をかしげると、ベルが笑った。
「軽そうな生地を一枚はおっているだけだったから、苦しそうには見えなかったよ」
「そうだね。首元も、袖も大きく空いていたし、大丈夫だよ」
 シンゴが補足すると、カオルもうなずいた。
「そうなの。私も見てみたかったなー」
 しみじみとそう言ったルナに合わせて、シャアラとメノリもうなずいた。

「でも今時浴衣なんて酔狂だよなー」

 ハワードが両手を頭の後ろで組んで、口をはさんだ。
「ずるずる長いし、あんなので寝たら邪魔でしょうがないじゃないか」
 お泊まり会を提案したのは自分なのに、話題がカオルに集中したのが悔しかったのか、ハワードの口調がやたら浴衣を小馬鹿にしたものだったので、興をそがれたみんなは眉をしかめた。
「そんなこと言うけど、ハワードは普通のパジャマでも邪魔なんじゃないの?」
「どういう意味だよ」
 冷ややかな視線のシンゴにハワードが口をとがらせると、シンゴは大げさに肩をすくめて続けた。

「だって、起きたときのハワード、ひどい格好になってたじゃないか。ハワードは普通のパジャマだったのにさ」

 浴衣のカオルはきちんとしてたのに、とシンゴの皮肉は続いたが、ハワードは一向にこたえた様子がなかった。ひらひらと手を振ってそりゃ当然だとうそぶいた。
「当然って?」
 怪訝そうな表情がそろった仲間達を前にハワードは得意そうに胸をはった。
「あの日はいつもとは違うものを着ていたからな」
「じゃあいつもは何を着ているのさ」
 シンゴの問いに、ハワードはさらに胸をはった。

「シャネルの5番さ!」

「はあ?」
 シンゴの語尾が跳ね上がった。他の仲間も意味がわからず目を白黒させている。
 ハワードはそんな仲間達の反応を愉快そうに眺めていたが、ふとその視線を一人の顔に固定した。その色白の肌が首まで赤く染まっているのを見て、ハワードはにやにや笑いを浮かべてその相手に声をかけた。

「なんだよ、メノリ。そんなに赤くなって。ははーん。ぼくの体でも想像したんだろう。まったく、いやらっ……!!」

 からかいの言葉は最後まで続かなかった。
 メノリの目にもとまらぬ黄金の右アッパーがきれいに決まったからだ。

「た〜まや〜」

 どこで覚えたのか、空高く飛んでいったハワードの体を見送ってシンゴが声を上げた。
「ねえ、カオル。浴衣ってどこで売ってるの?」
「女性用のものもあるのか?」
 星になったハワードに、もう誰もそれ以上はかまわなかった。何ごともなかったかのように浴衣談義を続ける女の子達に、ベルとシンゴも何食わぬ顔で加わった。

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