ギャグ書きさんに無造作に10のお題  2 世間知らず (サヴァイヴ)


「冥王星で経験があるんじゃないか?」

 と言われたのは少しどころではなく不本意だった。
 そのときは言い争っている状況ではなかったのでさりげなく聞き流しておいたのだが、それはベルの胸にずっとひっかかったままになっていた。
 この宇宙時代に火おこしだなんて、いったいぜんたいどうしてそんなふうに思われたりしたのだろうか。
 そのまま忘れてしまうことがどうしてもできなかったので、ベルはある日とうとう機会をとらえて尋ねてみた。
 すると、メノリの答えはいたって明快だった。

「冥王星では、危険な獣を避けるために一晩中火を焚いているのだろう?」

 答えは明快でも、その内容がこれでは、当然ベルの憂いは晴れなかった。
 その誤りきった認識の、いったいどこから正せばいいというのだろう。

 しっかりしているように見えても、メノリもやっぱりお嬢さまなんだな。

 適切な対応を図りかねたベルが、そんなあさってなことを考えている間に、会話の方は他のメンバーの間で勝手に進んでいった。

「そういえば、冥王星のコロニー建設は遅れてるって聞いたことがあるよ」
「確かに、予定通りには進んでいないみたいね」
「そういや学校もないんだよな。でもさ、コロニーがなかったらどこで寝るんだよ」
「寝る場所くらいはあるにきまっとるやろ。完成していないだけや」
「ちゃんとできあがっていなくて危険だから、火を焚いているのね」
「未発見のビーストの存在の可能性も、問題になっているみたいだし」
「でもそいつらに火って効くのか?」
「警戒しているという態度を見せるだけでも違うだろう」

 いや、だから! そうじゃなくて!
 会話の展開に乗り遅れ、ベルは、むなしく口を開閉させた。

 遅れているのは冥王星に定住する人向けのコロニーであって、開発者向けのコロニーはちゃんと完成していたんだ、とか。
 子供が少なかったから、学校の整備は遅れていたけれど、暮らしに不自由はないんだよ、とか。
 そもそも定住という話が出るくらいには、冥王星の環境は悪くないんだ、とか。
 冥王星に人を襲うような生き物はいない、というか生物は存在しないんだ、とか。
 たとえそんなものがいたとしても、冥王星の大気では火なんて熾せない、とか。
 色々言いたいことはあったのだが、そのどれもを口に出せずにいる間に、仲間達の間では冥王星では獣よけの火を焚いているという常識がすっかり定着してしまった。
 こんなことならば、メノリの言葉を聞き流したままにしておけばよかった。

 俺ってやっぱり要領が悪いんだな。

 ベルはがくりと肩を落とした。

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