雨の日で10題...2  07. 雨音の中の沈黙 (サヴァイヴ)

 雨が降っているので今日はみんないえにいた。仕事は全部休みと決まった。食料に余裕があるので、わざわざずぶぬれ覚悟で出かけることもないということになったのだった。

「…………」

「…………」

 雨が屋根を叩く音が響く部屋の中で、二人は向き合い、沈黙を通していた。口を固く閉ざしたまま、お互いの顔だけを見つめて、一分、二分、そして。

「ぶはぁっ! もうだめだ。がまんできない」

 奇妙な音を立てて口から息を吐き出すと、ハワードは足を崩して後ろに倒れこんだ。

「またハワードの負けだね」
「弱いなあ、ハワードは」

 年下の二人がこぞってハワードの敗戦を笑ったので、ハワードは飛び起きて反論した。

「なんでぼくの負けなんだよ! 笑ってないじゃないか」

 こぶしを振り上げて力説したが、判定は覆らなかった。

「笑わなくたって、それだけ表情を崩したら当然負けだよ」
「ハワードの顔、面白かったのにね」

 そっけないシンゴに比べ、アダムの言葉は若干なぐさめを含んでいたけれど、ハワードはありがたがったりはしなかった。

「だいたいなあ、こんなやつに勝てるわけないだろ!」

 こいつが笑ったところなんて見たことないぞと、さっきまで向かい合っていた相手を指差して鼻息荒くそう主張する。

「カオルとやりたいって言い出したのはハワードじゃないか」

 応じたのは指差された本人ではなく、あきれ顔のシンゴだった。

「カオルは強いね。えーと、これで……」

 アダムは無邪気に、ハワードが負けた回数を指折り数え始めた。

「だぁー! 言うな! もう一回! もう一回だ、カオル」

 勝てるわけがないと言ったばかりのその口で再戦を申し込む。今度こそ負けないからなと、勢いの衰えないハワードの姿に、それまで黙って見守っていたベルが肩をすくめ、同じく黙っているカオルに向かって尋ねた。

「いいのかい? カオル」

 勝負の最中も勝負がついてからも、表情を変えないカオルは、やはりそのままの表情で答えた。

「好きにしろ」

 雨で外に出られない日でも、いつもそれなりに賑やかだった。

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