扉に手をかけた姿勢のまま動けずにいたベルは、その扉が急に開いたので思わず後ずさった。その上現れた人に目を見開く。彼女がそのうち戻ってくることはわかっていたものの、相対する覚悟がまだできていなかったからだ。
彼女もまた目を丸くしていた。彼女の方はただ単純に驚いたのだろう。何度かまばたきをした後でベルの名を呼んだ。
「ベル。どうしたの? 寝てなかったの?」
「あ、いや。ちょっと目が覚めて……」
そこで口ごもる。胸の中でうずまくものは多いけれど、どう口にしていいのかまだ整理がついていない。
ルナ、最近元気ないね。何か気になることでもあるのかい?
そう尋ねたら、俺にもうちあけてくれるだろうか。
けれどその言葉は音にならない。ベルがまごついている間に、ルナは首を傾げて部屋に入った。そのままベッドへと向かうルナの表情がひっかかり、ベルは眉を寄せた。
ずいぶんと浮かない顔をしている。
カオルはルナの所へ行ったのではないのだろうか。そうしてルナの悩みを聞き出したのではないのだろうか。
「ルナ」
思わず声をかけてしまった。
「なあに?」
振り向いたルナの姿に慌てる。
カオルと何を話したんだい?
呼び止めた時に一気にそこまで言えば良かったのだ。けれど一度閉じてしまった口は、なめらかには開かない。
「あ、いや、――おやすみ」
結局あたりさわりのない挨拶しか言えなかった。
「おやすみなさい」
そう返してきたルナは微笑んでくれたけれど、もちろんそれでベルの心が軽くなるわけではない。
ルナが横になったのを確認して、ベルは部屋の外へ出た。そうして今度は扉の外で立ちつくす。
俺は何がしたいんだろう。何が、できるんだろう。
うつむいて拳を握る。
夜明けはまだ遠いようだった。