お祭り騒ぎの39話と40話、みなさまご覧になりまして?

うちでは放送が待ちきれなかったので、一人でマツケンサンバを踊っておりました。
毎日一話小話更新。
祭りといっても、萌えとときめきよりお笑い優先という、いつも通りの小話です。

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2/8分

 ベッドに深く座り直すと、ベッドがきしむ音がやけに大きく響いた。
 一瞬ひやりとしたが、誰かが起きてくる気配はなく、ベルはほっと息をついた。
 腰をかけた姿勢のままひざの上で両手を組む。そうしてやや体を前に倒すと、ベルは手の先にある床を見つめた。横になって休む気にはなれなかった。
 さっき出て行ったカオルはまだ戻らない。
 どこへ言ったのかは見当がつく。
 きっと、見はりをしているルナの所だ。

 嵐の中、ベルが引き上げることができなかったせいでに海に飲まれてしまったルナ。彼女とは幸運にも数日で再会することができた。みんなで必死で捜索してやっと見つけ出したルナは、さすがにやつれた様子だったが、それでも大きなケガもなく、ベルも含めて仲間達はみんな心から安堵した。
 戻ってきたルナは少しもじっとしていなかった。心配する仲間を前に、もりもり食べてあっという間に回復すると、すぐに私も働くと言い出した。
 しばらくは体を休めた方がいいと、シャアラを初めとしてあのハワードまでが勧めたのだが、大丈夫だと本人が言い張るので、結局仕事の当番はルナも含めて通常通りに回すことになった。
 大丈夫だという言葉の通り、ルナはてきぱきと仕事をこなした。見はりも食事当番も掃除も操縦も、何もかもだ。みんなに心配かけちゃった分頑張るからねと笑うルナは、今まで通り明るくて元気で頼りになるリーダーだった。初めのうちは常に誰かが心配そうにルナの後を追っかけていたものだったが、今ではみんなも安心したようだ。
 ルナが元気に戻ってきてくれて、すっかり元通り。

 けれど、ベルは落ち着くことができないでいた。
 気づいてしまったからだ。ふとした折りにルナが見せる表情に。
 いつでも明るく元気にしているルナが、時々その顔を曇らせる。

 あれはルナが戻ってきてすぐのことだ。
 久し振りに全員そろっての夕食にみんなはしゃいでいた。ベルも例外ではなかった。大声で騒いで笑って、ルナだって大きな口を開けて笑っていた。けれどベルは見てしまったのだ。話題がルナからそれて、みんなの視線もルナからはずれたその一瞬に、ルナの顔から笑いがはがれ、伏せられたその瞳が曇ったのを。シャアラが何かを言ってルナを振り向いたその時にはもう、いつもの明るい笑顔がそこにあったのだけれど。
 一度気づいてしまえば、次を見つけるのはたやすいことだった。仕事の切れ目で手が止まったとき、一人で何かをしているとき、ルナの笑顔が消えている。
 何が原因なのかはわからない。ルナが何を思っているのかも。けれどルナが何かを悩んでいることはわかる。ベルにはそれで充分だった。
 どうしたのかと何度も尋ねようと思った。けれど、大丈夫かと尋ねれば、きっと大丈夫だと答えが返ってくるだろう。
 いつ、どう切り出せばいいのか、ベルは迷っていた。

 きっと、カオルも気づいていたのだ。
 だからルナの所に行ったのだろう。
 今頃はルナの悩みも解消されているのだろうか。

 二人ともまだ戻らない。
 ベルは顔を上げると、音を立てないように慎重に立ち上がった。
 部屋の扉に手をかけて、外へ出ようとそれを開く。が、ほんの少し開いたところでベルは扉を閉め直した。
 けれどベルは扉から手を放そうともしなかった。

>ベルが果たしてカオルを追ったのかどうか、それは全話制覇二周目の第39話小話に続く (大ウソ)

とか言ってましたけど、ちょっとだけ続きました→こちら

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2/2分 

【TAKE1】
「俺がルナの家族になるよ!」

「え? ベルがお兄さん? それは素敵ね。頼りになりそうだわ(微笑み)」


【TAKE2】
「俺がルナの家族になるよ!」

「え? ベルがお父さん? うーん、流石に無理じゃないかなあ(苦笑)」


【TAKE3】
「俺がルナの家族になるよ!」

「やぁねえ。ベルはロボットじゃないんだから、チャコみたいにペットってわけにはいかないでしょう?(大爆笑)」


「――ええか? 相手はルナやで? ひょっとしたらこんな感じ……いやいやもっとわけのわからん反応が返ってきたかもしれん。ルナを狙っとるんやったらもっとびしっといかんかい! びしっとぉ!」
 黒板に見立てた大きな石に回答例を図解して、教壇に見立てた平らな石に乗ったチャコが熱弁をふるう。
 そんなチャコのご高説の前で、正座をしたベルが面目なくうなだれている。
 そしてその隣では。

 ……どうしてオレまで……。

 同じく正座を強要されたカオルがこの状況に理不尽さを感じながらも、なぜか立ち去れずに眉間にしわを寄せていた。

 チャコの講義はなおも続く。

>小姑っぽいんだもん。チャコ。でもこのチャコに育てられたルナはあれなので、あんまり実のある講義とはならないかもしれません

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2/1分 

 ルナにはまず休息が必要だった。
 話を聞くよりもまずはと、寝台に連れて行って、それからずっと水だスープだと世話を焼いていたシャアラが、やがてぽつりとこぼした。
「良かった」
「シャアラ?」
 何杯目かの水を口に運んでいたルナは手を止めてシャアラを見つめた。シャアラの口元は微笑みを作っていたけれど、目はうるんでいて涙がこぼれそうになるのを必死にこらえているようだった。
「無事だって信じていたけれど、でも、本当に良かった。心配したのよ?」
 かすかに震えているシャアラの言葉に、自分の目頭も熱くなるのを感じながら、ルナも微笑んだ。
「ありがとう、シャアラ。心配かけてごめんね」
 それは心からの謝辞だったのだが、それを聞いたシャアラが激しく首を振ったので、ルナは目を見開いた。
「シャアラ?」
「謝ることなんて無いわ。ルナが謝ったりしなくていいの」
 シャアラはきっぱりとそう言い切ると、コップを持つルナの手を自分の両手で包み込んだ。
「謝らなければならないのは私の方よ。ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「シャアラ? シャアラこそ謝ることなんて…」
 とまどうルナにシャアラはもう一度首を振った。
「ううん。わたし、またルナに迷惑をかけてしまったもの。船酔いくらいで弱気になって、仕事も手伝えなかったし、島に帰りたいなんて無茶を言うハワードを止めることもできなかったわ。わたしも帰りたかったから。どうして船になんて乗ったんだろうって思ってしまったから」
「シャアラ……」
 ルナは空いていた方の手を自分を包むシャアラの手に重ね、シャアラの言葉を待った。
「大陸に行こうって言うルナに、わたしは賛成したのに。一緒に船の準備もしたのに。それなのにあんな勝手なことを思って、ルナを責めて。ルナに無理をさせてしまったわ」
 シャアラは両手に力を込めて、まばたきもせずに言葉を続けた。
「ごめんなさい。ルナ、ごめんなさい。無事に戻ってきてくれてありがとう」
 ルナもまたシャアラの視線を正面から受け止めて、やがてゆっくりと首を振った。
「謝らないで、シャアラ。私だって、迷惑をかけることはあるし、シャアラに助けられたことだってたくさんある。だから、謝らないで。私たちは仲間じゃない」
「ルナ」
 はっとしたように表情を変えたシャアラに、ルナは微笑んだ。
「ね、だから、お互い様。これからもよろしくってことにしようよ」
 よろしく、と片目をつぶったルナに、シャアラも明るく笑った。
「うん。こちらこそよろしくね」
 笑顔を交わし合ってお互いに頭を下げる。
 そうして何日ぶりかの二人の笑い声が船室に響いた。

「でもルナ、大丈夫? どこもケガとかしなかった?」
「え、ああ、うん。大丈夫大丈夫。この通り元気元気!」
 両腕に力こぶを作ってみせるようにして笑うルナに、シャアラはルナが無事で良かったとその時はただそう思った。

>再会シーンをきちんと書くと長くなってしまうので、全話制覇二周目で書けたら……奇跡

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1/31分 

「でも驚いたな」
「何がや?」
「ベルがルナのこと好きだったなんてさ」
 シンゴとチャコはエンジンの調整のため機関室にいた。それぞれ別の場所を見ていたため、顔を合わせずに会話をしていたのだが、持ち出された話題にチャコは潜り込んでいた機械の下から出てくると、シンゴを見やって肩をすくめた。
「ま、うちには前からわかっとったけどな」
「そうなの?」
 意外そうに目を丸くしながらシンゴもチャコの方へ顔を向けた。
「あったり前や〜。見とったらわかるわ」
 得意げに耳をぴくぴくさせながら、チャコは腕を組んだ。
「前々からベルは何かとルナを気にしとったし、気を遣ってもくれとった。それに、あれや。ほらパーティーのときかて、ルナのためやったらってやたら張りきっとったやろ?」
「へー。そんなことでわかるんだ」
 片目をつぶり、もう片方の目は眉ごと上げて、チャコはふふんと笑った。
「はっきり言ってバレバレやな」
「ふーん」
 けれどシンゴが漏らした息は感嘆のそれではなく、ずいぶんと気のない調子で響いたので、チャコは肩を落とした。
「なんや、その反応は。気が抜けるわ」
「だって、僕には全然わからなかったしさ」
 すねたような口調でシンゴがそう言うと、チャコは体勢を立て直し、もう一度胸をはって口を開いた。
「ま、お子様やからしゃあないかな」
「お子様はやめてよ」
 シンゴが口をとがらせたが、チャコは前言を撤回せずにひらひらと手を振った。
「お子様はお子様や。うちはナリは小さいけどな、あんたらよりずっと大人なんやで?」
「うん、それは知ってる」
 半ば挑発するような響きを持たせたチャコの言葉に対して、シンゴは怒りもせず事も無げにそう答えた。
「なんで知ってんねん」
 てっきり軽い口げんかのようなやり取りが始まると思っていたチャコは、やや拍子抜けしたこともあり、ごく単純にそう聞き返した。するとシンゴの口が軽快に走り出した。
「だってチャコはウルトラレイカー社のロボットペットだろ? ハルカFBシリーズの第二弾の。しかもシリアルナンバーがDAGAAN003から始まっていたから初期のロットだよね。そうなると、実際の稼働時間はそれより短くなるとしても、少なくとも本体が制作されてから……」
「もうええもうええ! レディーの年齢に関してあれこれ詮索するのはマナー違反やで! 覚えとき!」
 作られてから何年になるよね、という結論が出る前にチャコは大声を出してシンゴの考察を遮った。
 チャコはロボットだ。年齢についてあれこれ言われたとしても、例えおばちゃんとか年増だとか貶められたとしても、人間の女性ほど不快感はない。けれど自分が教えたわけでもない自分の氏素性をとうとうと語られてはさすがにいい気はしなかったのだ。
 シンゴの語った内容に間違いがなかっただけに余計に気分が悪い。
「なんだよ。自分が言い出したんじゃないか」
 話を途中で邪魔されて、シンゴはさすがに不満をあらわにしたが、チャコはかまわず手を振った。
「ええから、作業再開や。もたもたしとる暇はあらへん」
「もう、勝手なんだから」
 ぶつぶつ言いながらも機械に向かい直したシンゴを横目にチャコは小さくうなり声をあげた。

 機械いじりが好きな奴やからな。色々勉強して色々知っとるんやろう。それはわかる。わかるけどな。

 お子様なだけにデリカシーが足りない。
 通信機の修理等、それなりに事情があったとはいえ、シンゴに身体を触らせたのは間違いだったと、チャコは深く後悔した。

>もちろんシリアルナンバーとかの出所はでたらめですわよ。分かる人には分かるかもしれませんが(笑)

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1/30分 

「ん?」
 全員に目をそらされ手の中のサラダをもてあましていたハワードは、黒い人影が立ちあがったのを視界の端にみとめて眉を持ち上げた。
「カオル、どこに行くんだよ」
「……様子を見てくる」
 問われたカオルはハワードに視線を流し、体の向きを変えながら短く答えた。
「はあ?」
 意外な答えにハワードがすっとんきょうな声をあげる。その声とほぼ同時にチャコがぴょんと飛び上がった。
「うちも行くで!」
「わ、わたしも」
 チャコに続いてシャアラが腰を浮かすと、シンゴとアダムも声をそろえた。
「僕も行くよ」
「ボクも!」
 そうしてみんなでベルとルナが向かった方向へと走り出す。
「お、おい、待てよ。置いていくなよ」
 サラダの入った皿を地面に残し、ハワードも慌ててその後を追った。


「――お、おまえ達! 何を考えているんだ。待て。待たないか!」
 遅まきながらメノリが制止の声をあげるも、すでにその姿が小さくなりつつある皆には届かない。 取り残されたメノリは立ちあがりかけた姿勢のまま、しばらく皆の駆け去った方向へ伸ばした手を握りかけては開く動作を繰り返していたが、やがてそれをぎゅっと握ってこぶしを作ると勢いよく立ちあがった。
「まったく、どいつもこいつも何をやっているんだ!」
 強く地面を踏みしめてメノリにしては乱暴な口調でそう吐き棄てる。そして焚き火に砂をたたきつけ、火が消えたのを確かめると、メノリは大またで歩き出した。

>放送時、ちゃっかり盗み聞きに参加しているカオルに笑い転げたものでしたが、ひょっとしたら先陣をきったのは奴かもしれんと思いまして

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1/29分 

「大きいなあ」
「大きいねえ」
 ハワードの(?)活躍で手に入った今日のメインディッシュを前に、シンゴとアダムは何度も感嘆の言葉をこぼした。
 それはあまりに大きい上に重かったのでオリオン号に引き上げるのも大変だったのだが、調理するのもまた大変そうだ。どこからどう包丁を入れればいいのか、二人は調理台にのせた魚の回りをぐるぐるしながら何度も首をひねる。
 が、いつまでもそうしていても仕方がないので、シンゴは意を決してナイフを手に取った。そしてえいやっと魚の腹にそれを差し入れる。
 やはり肉が厚いからか、力を込めないと刃が進まない。両手でナイフの柄を握りしめ、力をこめてぐいぐいと刃を押しつけるようにして切っていく。これだけ大きいとさばくというよりは解体という表現の方がふさわしい。
「シンゴ、がんばって」
 魚を押さえてくれているアダムからの激励に答える余裕もなく、うんうんうなりながら解体作業を進めていたシンゴがふと首をかしげた。刃から伝わる感触になにか妙な感じがあったのだ。
 開いた魚の腹を押し広げてその感触の元を探し、それらしいものを見つけて引っ張り出す。
「何だろう、これ」
 ずるずると出てきたのは、長い紐がからまったようなものだった。
「もじゃもじゃだね」
 アダムも不思議そうにそれを見つめる。シンゴも眼鏡を直しながらじっくりと観察してみたが、固くて細い繊維がからまってできたたわしのようにしか見えない。
「とりあえず、洗ってみようか」
 シンゴは魚の血で汚れたそれを海水でゆすぎながら、からまっているのをほぐしてみた。
「なんだろうね」
「うーん、海藻の一種かなあ」
 綺麗になったそれは、やはり細い紐のような形をしていて、触るとしこしことした弾力が感じられた。
「――に、似てるね」
 一生懸命その正体を考えていたために、シンゴはアダムが何と言ったのか聞き逃してしまった。
「え? なんて言ったの?」
 そう尋ねて、そして返ってきたアダムの答えに、シンゴは思わず手を打った。
「ほんとだ。よく似てる」
「ねー」
 同意を得たアダムがにっこりと笑った。
 二人で顔を合わせて愉快そうに笑っていると、シャアラが調理場に入ってきた。
「二人とも、お料理の準備は進んでいる?」
 シャアラは困っていることがあれば手伝おうと様子を見に来たのだが、二人が手にしている海藻らしきものを見て目を丸くした。
「なあに、それ。どうしたの?」
「何かはよくわからないんだけどね」
「おさかなのお腹から出てきたんだよ」
 二人の説明を聞きながらシャアラはまじまじと正体不明のその物体に見入っていたが、やがてぽんと両手を合わせた。
「使えるわね、これ」
「?」
 顔を輝かせているシャアラを前に、シンゴとアダムは首をかしげて顔を見合わせた。

 その日、お花の好きな少女を熱演するハワードの髪から、ほんのり潮の香りがしたという。

>だってかつらの入手方法が気になって気になって気になって

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1/28分 

 ため息をつきかけてシャアラは慌ててそれを飲み込んだ。
 水に浸したタオルを絞り上げ、アダムの額にのっているものと取り替える。取り替えたそれがずいぶんぬるくなっていたので、シャアラは顔を曇らせた。
 アダムの熱は高くなる一方だ。苦しげな呼吸も一向に収まらない。
 そんなアダムの目の前で他の物思いに沈むなんてどうかしている、と思ったのだ。  
 シャアラは今一人でアダムの看病をしていた。他のみんなは船の操縦や機械の調整、見張りや食事の支度などでそれぞれ別の場所にいる。
 ふと、アダムが苦しげに身じろぎをした。額にのせたばかりのタオルが滑り落ちる。
 シャアラはずれたタオルを額に載せなおすと、ハンカチでアダムの首筋の汗をぬぐった。
アダムのことはもちろん心配でたまらない。けれど静かな部屋でこんなふうに一人座っていると、どうしても昼間の出来事が思い出されてしまう。
『俺がルナの家族になるよ』  
 ハワードがふざけて立ち聞きしたらしいベルの言葉を披露したとき、シャアラは驚いた。
『それはいわゆる……プロポーズやな!』  
 続いて飛び出したチャコの解釈にはさらに驚いた。
 思いがけない展開にただ単純にびっくりして、でもそれはどこか痛みを伴う驚きだった。
『ルナはそれになんて答えたの?』  
 そう尋ねた自分の声は震えていた。胸の奥をわしづかみにされて、その上きつく絞り上げられたかのように息をするのが苦しかった。  
 ベルはルナのことが好きなんだ。  
 それは、前から知っていたことのような気がする。いつだってベルはルナのことを気遣っていたから。それにルナは素敵な女の子だ。シャアラもルナのことが好きだった。初めてあったときから、そしてこの星に来てからも、ずっとルナはあこがれだった。ベルにとってもそうなのだろうと、それは前から感じていたような気がする。
 けれど改めて認識したその事実は、シャアラを動揺させた。
 戻ってきた二人をハワードがからかって、駆け出したベルをルナが追いかけて、二人の後をみんなで追って、そうしているうちにその理由がシャアラの中ではっきりとした形を取っていった。
 わたしはベルのことが好きなんだ、と。
 この星に来て、ベルのことを知っていって、とても優しい人なのだとわかってきた。そしてその穏やかな強さを頼りするようになっていたのだけれど、仲間としての信頼以上にベルに惹かれていたのだと気づいてしまった。
 けれど、今は苦しいわけではなかった。二人を追ったその先で、二人のやり取りを聞いたからだ。
 うれしかった、とルナはベルの思いを受け止めた。プロポーズをそのまま受け入れたわけではないけれど、その言葉に込められたベルの気持ちを受け止めて、ありがとうと言っていた。
 みんな家族だから寂しくないと、そんな二人の会話を聞いて、シャアラはとても温かい気分になれた。ベルとルナとのそれぞれを思いやった優しい気持ちを感じて、胸にじんわりとぬくもりが広がった。
 やっぱり二人とも素敵だとそう思った。
 けれど温まった胸の中にぽつりと残ったものがある。寂しさにも似たその感情を持てあまし、シャアラはそっと目を伏せた。

>なんだかシャアラは(カオルも)、相手がルナ(ベル)ならしょうがないとか思ってそうだなあと思いました

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1/27分 

「どうだ?」

 長い金髪とそれを飾る赤いリボンをかき上げて、ハワードは得意げに笑った。
 加えてスカートの裾を持ち上げ、エプロンをとめている背中の大きなリボンを揺らしながらくるりと一回転してみせる。
「ハワード、よく似合ってるわ」
「ほんまや。これなら充分主役が務まるやろな」
 シャアラが手を叩き、チャコが何度もうなずくと、ハワードの鼻がますます上を向いた。両手を腰に当てて胸をそらす。
「まあ、この僕が主役なんだ。この劇の成功は間違いなしだな」
「そうね。ハワード、がんばってね」
 シャアラが素直に賛同すると、ハワードは満足げにうなずいた。

 と、そこへ凛とした声がかかった。
「シャアラ、ちょっといいか?」
「なあに、メノリ」
 振り向いたシャアラの目が大きくなった。
「衣装の着こなしは……」
 これでいいんのだろうか、とメノリがそう言い終わる前に、シャアラの口から一際大きな歓声が上がった。

「わあ、メノリかっこいい!」

「そ、そうか?」
 胸の前で両手を組んで感嘆するシャアラに、メノリは少し驚いたようで、その体が少し後ろに下がった。
「ええ。とっても素敵。花の精のイメージにぴったりだわ」
「そうか?」
 けれど重ねて褒められると悪い気はしなかったらしい。二度目の言葉は柔らかい微笑と共にこぼれた。
「ええ、本当によく似合うわ」
 シャアラもにっこり笑う。そうして前から後ろから衣装をまとったメノリを確かめて、嬉しそうにメノリと言葉をかわす。

 すっかり置いておかれた格好になったハワードは、腕を組むとふんと鼻を鳴らした。
 口に出して文句を言ったりはしなかったが、それはたいして怒っていなかったから、ではない。
 本当は相当面白くない気分だったのだが、シャアラが自分よりメノリを褒めたことに腹が立つのか、メノリが自分よりかっこいいことが気にくわないのか、そこは自分でも判断がつかなかったので、とっさに言葉を選べなかったのだ。

 それでも自分が主役であることは変わらない。本番で一番目立てばいいかと、ハワードはとりあえずふくらんでいた頬から空気を抜いた。

>メノリがめっちゃかっこよかった。振り向きざまに剣を構えるシーンはコマ送り必須!


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