「もしかしたら、オレは、無意識のうちに手をゆるめて――」
カオルは握りしめた両手を地面にたたき付けた。続いてこぼれたしずくがその拳をぬらす。
「――っく」
固く結ばれた口からそれでも漏れてくる声が、小刻みに揺れる肩が、痛々しくて見ていられないと思ったときには手が伸びていた。うなだれ、フードと髪に隠れた顔を胸の中に引き寄せる。
カオルは逆らわなかった。
その肩が自分の腕の中に収まってしまったことにルナは驚いた。
この惑星に流れ着いてから、いつだってみんなを守ってくれたカオル。食料の調達も道具の製作も彼はなんでも器用にこなした。一人で出かけても必ず無事に戻ってくる彼を、みんなで頼りにしていたのだけれど。
仲間の生活を支えてくれていたその肩はこんなにも細かったのか。
改めて認識したその事実にルナは唇をかんだ。こぼれる涙と一緒にカオルが溶けていってしまいそうで、背中に回した腕に力をこめる。
ルナの腕の中でカオルは顔を伏せたまま体を震わせ続けた。途切れ途切れの嗚咽が耳に届くたびに、それはルナの胸をもえぐった。
泣いてもいいのに。
止まらない涙。あふれるそれがカオルの頬を伝っては落ちる様子を感じながら、けれどルナの胸に浮かんだのはそんな思いだった。
きつくきつく、握った両手、閉じたまぶた、かみしめている口元。嗚咽ですら押し殺したものであることが、無性に悲しかったのだ。
これだけ涙を流しても、まだカオルは一人で耐えている。例えこのまま一晩中泣き続けたとしても、カオルの心が軽くなることはないだろう。隣で燃えているたき火の熱も、寄り添っている自分のぬくもりも、きっとカオルの心には届いていない。
ふと、カオルに夢を託したという少年のことがルナの頭に浮かんだ。
今のカオルの姿を、その少年もきっと喜んだりはしないだろうに。彼はカオルに辛い思いをさせるために、手を放したのではないはずだ。――ルナの父がそうであったように。
震えの止まらない肩を、ルナはいっそう強くひきよせた。二人でいるのに、たまらないほど寂しかった。
泣いてもいいのに。
もっと思い切り泣いてもいいのに。
けれど思いを伝える言葉が見つからない。壊れそうな細い肩を、ただ抱きしめることしかできない自分が、ルナははがゆくてしかたがなかった。
泣きたいときは、泣いてもいいのに。
胸の中で祈るように繰り返すルナの瞳がたき火の炎を映した。瞳の中の炎が一際明るく輝いたのは、そこに満ちる透明なしずくがあったからだ。
しかしルナの瞳に浮かんだそれが、彼女の頬を濡らすことはついに無かった。