第三十三話 浮上開始

 前々から仲良くなりたいと思っていたカオルと同室になることができた。
 おかげでそれまで知らなかった彼の普段の様子を見ることが出来るようになったのだけど。

 起床は5時。ベッドから降りるときは右足から。まっすぐに洗面室に入って歯磨き、洗顔。たぶんトイレも済ませて出てきたら、今度は着替え。着替えが制服じゃなくて運動服なのは朝の自主トレーニングがあるからだ。パジャマはたたんで枕の右に置く。ここまでが15分。
 トレーニングは1時間。トレーニングルームで毎日決まったメニューをこなす。
 戻ってきたらシャワー。そして制服に着替えて今度は机に向かう。ノートを覗いてみたことがあるけど、今日の授業の予習をしているみたいだ。それは起床の音楽が鳴るまで続く。声をかけても全然反応しないし、ものすごく集中してるらしい。カオルは本当に努力家だ。
 音楽が鳴ったらすぐに食堂へ向かう。食事は起床時刻の7時から8時の間、好きに食べられるようになっているのだけど、カオルはいつも一番だ。誰もいない食堂で食べ始めて、他のみんなが食堂に入る頃には食べ終わっている。
 食べ終わって部屋に戻るともう一度歯磨き。そして身だしなみチェック。合わせて7分鏡の前にいる。言い忘れたけど歯磨きはきっかり3分だ。砂時計を使用しているから間違いない。その後はまた机に向かって予習の続きをする。机を離れるのは部屋を出る時刻の10分前だ。今日の持ち物を確認して、鏡の前で最終の身だしなみチェックをして、それからカオルは教室へ向かう。
 8時45分から朝礼が始まる。カオルはその5分前に席につく。席は特に決まっていないから、みんな好きに座るのだけど、カオルは右から三列目、後ろから三番目が指定席だ。両手はひざに、背筋を伸ばして先生を待っている。その間微動だにしないのだから、感心するね。カオルは本当に真面目だ。
 9時から授業。12時30分から13時25分まで昼休みで、みんなその間に自由に昼食をとる。
 カオルは昼休みになるとまず図書室へ行って本を読む。どんな本が好きなのかと思って、尋ねてみたけれど、特に好きなものはないってことだった。どうやら並んでいる本をその順番通りに読んでいるらしい。入り口に近い棚の一番上の左端がスタート地点だというのは、カオルの本の選び方を見た僕の推測だ。
 そして昼休みの終わる15分前になると食堂に入ってようやくランチタイム。そのころになると、もう食堂に人はほとんどいない。授業開始5分前に教室に戻れるように食べ終わるカオルが座っているのは、朝食の時と同じ場所。
 午後の授業開始は13時30分。終了は17時。
 終わったらそれぞれ補習がある。先生に指定されるものを受けなければならないときもあるし、自由に選んで受けられるときもある。指定がなければ受けなくてもいい。
 カオルは指定を受けたことがない。だからいつも自分で選んでいる。僕は補習に行かないときもあるのだけど、カオルは必ず受けている。何をするかは曜日によって決まっているらしい。でもどう決まっているかカオルは教えてくれなかった。毎日ついていけばわかるだろうけれど、カオルがとても嫌そうな顔をするのでやめておいた。ルームメイトに嫌われたくはないしね。
 部屋に戻るのはいつも19時。そしてお風呂。毎日1時間は出てこない。シャワーを浴びるだけなのになんでそんなにかかるのかと思ったら、カオルは湯船につかっているんだそうだ。熱いお湯に長時間つかるなんて、物好きだと思うけど、カオルはそうしないとお風呂に入った気がしないらしい。体を洗うならシャワーで充分なのに、カオルは本当に変わっている。
 長いお風呂から上がってきたら、次は晩ご飯だ。食堂は20時30分に閉まるから、カオルが食堂に入るころにはやっぱり人が少なくなっている。だからカオルは座るのは朝と昼と同じ席だ。
 戻ってきたらまた3分歯磨き。多分お風呂に入ったときにも磨いてるのだろうに、カオルは本当にきれい好きだ。
 歯磨きが済むとカオルは机に向かう。毎日遅くまで起きているみたいだけど、何時まで勉強しているのかはわからない。いつも僕の方が寝るのが早いからだ。でも、一度だけ頑張って一緒に起きて勉強してみたその時は0時就寝だったから、多分毎日そうなんだろう。
 そしてカオルは5時に起きる。
 毎日毎日いつも同じ完璧なスケジュール。そういえば、歩き出すときはいつも右足からだし、カオルは本当に几帳面だ。
 それが狂ったらどうなるんだろうかと思って、僕は一度カオルの目覚ましを止めておいたことがある。でも全然意味がなかった。なぜならカオルはいつも目覚ましが鳴る前に起きていたからだ。
 鳴らない目覚ましをほんの少しいぶかしげに見ただけで、その日のスケジュールには全く影響しなかった。

 まだルームメイトになって日が浅いけれど、カオルのことを前よりよく知ることが出来て僕は嬉しく思っている。なぜならカオルは本当におもしろくてすごいやつだからだ。
 これからもっと仲良くなっていけるといいと思っている。
 僕はそうなるつもりだ。

終わり

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