第十七話 心はいつも青空

 熱を出したルナのために、薬を、滋養のある食べ物を探しにでた五人と一匹は、それぞれ確かな収穫ともにみんなのいえに帰ってきた。

「ああ、もう、びしょぬれだよ」
 ハワードが服をしぼりながらぼやいた。
「メノリはいいよな。家の中にいたんだから。僕が代わりに残ればよかった」
 しぼりあげた服からしたたり落ちる水のように、ハワードの口からこぼれるものも多かった。
「そんなこと言ったって」
 その隣で服をつるしながらシンゴが口を出す。
「ルナは女の子なんだから、ハワードが看病するわけにはいかないだろ」
「なんでだめなんだよ」
 高く音をならしてしぼった服を広げながらハワードがほおをふくらませる。
「ただ隣に座って寝てるのを見てればいいんだろ? 楽なもんじゃないか」
「はぁーあ」
 シンゴは口の端を上げて笑うと、肩をすくめて首を振った。
「ハワードって子供だよね」
「なんだよそれ!」
「なんで子供だって言われたか、わかんないところが子供だっていうんだよ」
「なんだよ、ちゃんと説明しろよ」
 ほえるハワードにシンゴはもう一度肩をすくめると、それ以上取り合おうとはしなかった。

 
「ルナ、大丈夫かしら」
 ルナのベッドの横で不安げにシャアラが両手を組んだ。チャコがルナの額に手をあてて熱を測る。
「うん、今朝よりずいぶん下がったようや」
「本当?」
「ああ、うちらのとってきたくずと、ベル達がとってきてくれたよもぎが効いたんやろ。目が覚めたらカオルの卵とハワードの果物食べさして、そんで精をつけたら、きっとすぐに元気になるわ」
 チャコの言葉に同じくルナの様子を心配そうに見守っていたメノリとベルもほっと息をついた。シャアラと三人、顔を見合わせて笑う。
「しかし、この雨の中よく薬を見つけてきたな」
 メノリが残ったくずの根のかけらを手に感心して言うと、チャコがルナの枕元で大きく胸をそらした。
「大変やってんで〜、ほんま。雨のせいで視界は悪いし、足元は滑るし。そんで崖に落っこちそうにはなるし。シャアラなんて脚をすりむいてしもたしって、そうや! シャアラ!!」
「な、何?」
 チャコの大声に驚いて後ずさったシャアラの足元にチャコは勢いよく飛び降りた。
「ケガの手当! まだしてへんかったやろ」
「そんな大げさにしなくても大丈夫よ。ちょっとすりむいただけなんだから」
 いつにもまして早口なチャコの言葉に対し、のんびりと答えたシャアラの肩にベルが手を置いた。
「小さな傷でも、ちゃんと消毒しないとだめだよ。ばい菌が入ったら大ごとになる」
「そうだ。なんでもないうちにきちんと処置しなくては」
 メノリもチャコとベルに同意する。
「よもぎは傷の消毒にも使えるんだ。準備しておくから、シャアラはまず傷口を洗っておいで」
 穏やかにそう勧めてくれるベルにシャアラは笑顔でうなずいた。


 一通りぬぐったとはいえ、濡れた体に風が通るとさすがに寒い。カオルは一つ身震いをしてまだ降り続いている雨を見た。
 この雨のせいで、考えていたより食料を採ってこれなかった。今日のところはいいとして明日のことだ。ルナの熱が下がっても、滋養のある食べ物はまだ必要だろう。それに自分たちの分も。雨に濡れた仲間が体調をくずさないように、充分に食べられる量をそろえなくては。
 雨はまだ降っているが少しずつ弱まっている。明日の朝にはあがるだろう。夜が明ける頃、魚でも捕りに行こうか。雨で水かさが多少増しているからきっとあの場所なら釣れるだろう。
 明日の釣りのポイントを考えるカオルの、まだ濡れた髪からしずくが落ちて小さく床を濡らした。

終わり

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