カオルはシャトルのシートから体を起こした。
暗い機内にはシンゴ達の寝息が響いている。
カオルは立ち上がり、はしごを登ってハッチを開けると、シャトルの外に顔を出した。
満月と満天の星の他に浜を照らす灯りがあるのは、昼間のベルとシャアラの努力の成果。焚き火の方に目をやると、今もベルが火の番をしている姿が見えた。
『なにをするんだ』
あの時声を荒げたカオルに動じる様子を見せなかったベル。笑顔すら浮かべて、気軽に借りるよと持っていったナイフで魚の内臓を処理して見せた。
コロニーでのベルのことは正直カオルの記憶にはほとんどない。ハワードの後にくっついていた姿をそういえば見たことがあったかもしれないという程度だ。それがこの惑星に来てからのベルはどうだ。誰かの後ろに隠れるどころか、自分から前に出てきて動いている。カオルも助けられた。
体に巻き付いた人食い植物のつるの感触を思い出す。あの状況から自力で助かる自信がなかったわけではないけれど。
『この先にもう食料はないと思う』
『俺たちにとって危険なものを食べてるかもしれないんだ』
ここに来てから耳にする機会の増えたベルの言葉が浮かんでくる。
そんな知識はさしものカオルにもなかった。
『いいなあ、僕にも作ってよ』
『みんなで協力してやりましょう』
シンゴとシャアラの言葉もよみがえる。
自分のことは自分でするというのがこれまでのカオルのやり方だったし、誰でもそうするべきだと思っていた。それに自分のことならなんでも自分でできるという自信もあった。
けれど、こんな状況になった以上、全てをコロニーにいる時と同じようにするというわけにはいかないのかもしれない。
カオルはシャトルから出てハッチを閉めると、焚き火とは反対側の砂の上に飛び降りた。
今夜は星の他に月も出ている。これだけ明るければ森の中とはいえ、一度行った場所ならたどり着けるだろう。
ポケットの中のナイフの感触を確かめて歩き出す。
今日は結局一匹しか魚を捕ることが出来なかった。もりを使いこなすにはもうしばらくかかりそうだ。しかし、釣りでならなんとかなるかもしれない。なんといってもここの魚は釣られた経験などないのだろうから。
場所をゆずったシンゴとチャコは結局釣れなかったようだが、釣り針さえあればどうにかなるはずだ。
昼間見た動物の骨がきっと使える。それに、ナイフの材料も拾ってこなければ。明るくなればベル達は、水を探しに行った三人を迎えに行くのだろうから。
森の奥へと入っていくカオルの背中を大きな月が見送っていた。