第六話 僕らはゲームをしてるんじゃない

「一度あの山に登ってから帰る。それしかない!」
 力強いメノリの宣言に従って三人は一路山頂を目指した。


「なあ、ルナぁ、水くれよ。もうのどがカラカラだ」
 ずいぶん離れた所から弱々しく聞こえてくるハワードの声に、ルナは背中のリュックを軽くゆすって振り返った。
「まだ全然歩いてないじゃない。湖であんなに飲んだのに」
「もうずいぶん歩いたって。なあ、水飲ませてくれよぉ〜」
 ふらふらとしゃがみ込んでハワードが重ねて訴えてくる。困ったと肩をすくめるルナの隣に、少し前を歩いていたメノリが戻ってきて並んだ。
「まだ山頂は遠い。こんなところで水を消費されては困る」
 そう冷たく言い放った後で、メノリは少しだけ口調をゆるめた。
「まあ、お前が荷物を背負うというなら話は別だが。水を運ぶ者が水を管理するのは当然だからな」
 肩を落としてしゃがみこんでいたハワードはその言葉にとびついた。
「じゃあ、僕が運ぶ。メノリ、やっぱり駄目だとか言うなよな」
 勢いよく駆けてきてルナからリュックを受け取るハワードの様子に、メノリは軽く目を見張った。食料が入っていた時ならともかく、ハワードが進んで重い荷物を背負うとは思わなかったからだ。
 しかし、そこはやはりハワードだった。早速リュックからペットボトルを取り出すと、ふたを開けながら「ただし」と言ったのだ。
「ただし、あそこに見える木の所までだ。そこからはメノリが持てよな」
 そうして音をたてて水を飲む。メノリはたちまち眉をつりあげた。
「何を勝手なことを。自分が運ぶと言ったのだから最後まで責任を持って運ぶんだな」
「僕は行きもずっと運んだんだ。次はメノリの番だろうが」
 放っておけばどんどん言い争いが激しくなりそうな二人の間に、ルナがあわてて入った。
「まあまあ。それなら、じゃんけんにしない?」
「じゃんけんだと?」
「うん。とりあえず、あの木の所まではハワードが運んでくれるんでしょ? そこまで行ったらじゃんけんで次に持つ人を決めましょうよ」
「そんなことしなくても、メノリが持てばいいんじゃないか」
「お前が運ぶと言っただろうが」
「だーかーら!」
 またもかみつきあう二人を両手で引き離す。
「あの木の所で負けた人が次の目印まで運んで、そこからまたじゃんけんで次に運ぶ人を決めるの」
「……」
 不満そうに黙っている二人をルナは笑顔で押し切った。
「公平でしょ?」

 ハワードの指定した目印はすぐそこだったので、三人は早々にじゃんけんをすることになった。
「じゃけんぽん!」
 三人ともグー。
「あいこでしょ!」
 ハワードがチョキ、メノリがグー、ルナがパー。
「あいこでしょ!」
 ハワードがパー。メノリとルナがチョキ。
「お前の負けだな」
「じゃあ、ハワード、よろしくね」
 勝負が決まると、二人はすぐさま山頂へと歩き出す。
「あそこの石までだからな!」
 足の速い二人に「三回勝負だ!」と言いそびれたハワードは、仕方なくリュックを背負ったまま後を追う。もちろん次の目印もすぐ目の前だ。

「じゃんけんぽん!」
 ハワードがグー、ルナとメノリはパー。

「じゃんけんぽん!」
 ハワードがチョキ、ルナとメノリはグー。

「じゃんけんぽん!」
 ハワードがパー、ルナとメノリはチョキ。

「じゃんけん……」
「もうやるだけ無駄だと思うが?」

 一度目は偶然。二度目は推測。三度目からは確信。
 リュックがハワードの背中から離れたのは、三人を探しに来たベル達と合流できたときだった。

終わり

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