次の約束 (サヴァイヴ シャアラ)

 「シャアラ! 誕生日おめでとう。かんぱーい!」
「「「かんぱーい!!」」」
 唱和された声の大きさと重なりにシャアラはめまいがした。

「シャアラの誕生日なら盛大にお祝いしなくちゃな!!」
 大金持ちの一人息子という立場にある彼がそう言って目を輝かせたとき、シャアラだってある程度の覚悟はしていた。贅沢に慣れている彼と庶民の自分とでは、盛大の基準が違う。つきあいも長くなり、それにもある程度慣れてきていた。しかし、いくら盛大といっても限度というものがある。

 広い会場、豪華な料理、珍しい酒、着飾った人、

 まごうことなき「盛大」な誕生日パーティーに、シャアラは目がくらみそうだ。しかもこれが自分のためのものだなんて。
 シャアラもけっして手をこまねいていたわけではなく、もっと小規模なものでいいのだと言ってみたこともある。しかし、彼はシャアラが遠慮しているのだと受け取ったらしく、かえって逆効果になった。パーティーは年々盛大の度を増していく。もはや招待客の8割はシャアラの知らない人だ。

「シャアラ、紹介するよ。彼は……」
 背中を押されてシャアラは慌てて笑顔を作った。相手はシャアラの知っている人だった。ただし、直接の面識はない。ニュースペイパーやテレビで見ているから顔を知っているという人だ。要するに有名人である。
 そうした招待客の人々と堂々と渡り合う彼の姿は頼もしいし、そういう相手に臆面もなく自分のことを自慢してくれるのは、気恥ずかしいけれどうれしいとも思う。でもやっぱり誕生日をこんな派手派手しい場所で過ごすのはいたたまれない。

 どう言ったら効果があるのだろう。

 熟慮の末、シャアラは一つだけ思いついた。彼のタキシードの袖をつまんで引き寄せる。
「どうしたんだ?」
 自分の方へ降りてきた緑色の瞳に、シャアラは「気が早いのはわかってるんだけど」と前置きをした後で遠慮がちにそれを口にした。
「来年の誕生日の予約をしてもいいかしら」
「もちろん。来年はどうしたい?」
 即座にうなずいた彼はやはり気前がいい。笑顔で自分の言葉を待っている彼の耳に、シャアラはこそりとお願いをつぶやいた。

「来年の誕生日は二人きりで過ごしたいわ」

 彼は最初きょとんと目を丸くした。そしてシャアラの顔をまじまじと見つめると、いきなりその表情を変えた。
 シャンデリアの明かりを受けてきらめく金髪に負けないくらい緑の瞳を輝かせて、満面の笑みを浮かべる。そうして彼は勢いよくシャアラを抱きしめた。
「ああ、シャアラ。なんてかわいいんだ!」
「ちょ、ちょっと、え!?」
 会場中の視線が自分たちに集まったのを感じる。シャアラは抜け出そうともがくが彼は放さない。腕の中にシャアラを閉じ込めたまま、彼はシャアラのお願いを受け入れた。
「約束するよ。来年はずーっと一緒にいるからな」

 そ、そういう意味じゃなかったんだけど。

 シャアラはこれでよかったのかと一瞬顔をひきつらせた。
 だが、すぐに思い直す。とりあえずこのお祭り騒ぎが回避できるなら、もうそれでいい。それに、シャアラだって誕生日を好きな人とずっと一緒に過ごせるなら、それが一番うれしいのだから。

 ひとしきりシャアラの抱き心地を堪能してから、それでもしぶしぶシャアラを解放した彼は、真っ赤になって怒っているシャアラをなだめながら、気の早いことにもう来年の彼女の誕生日へ思いを馳せていた。

 せっかく二人きりで過ごすなら、豪華客船を貸しきろうか。いやいや、ホテルの方が便利かもしれない。いっそ惑星貸切ってのもいいな!

 来年の誕生日、シャアラの笑顔の行方は彼が握っている。

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