永遠に (WA3 ジェット)

 今日はヴァージニアの誕生日だった。目の前に広がるお祭り騒ぎに、彼は心底うんざりしていた。

 彼のために口を添えるとすれば、彼がヴァージニアの誕生日を祝えないのは、彼がヴァージニアのことを嫌っているからではない。むしろ彼はヴァージニアのことが大好きだ。本人に確認しようとすれば全面的な否定がそれはそれは怒涛の勢いで返ってくるのは必至だが、それ自体は間違いない。だから、たとえ彼には無駄だとしか思えないことでも、それで彼女が笑うのなら、バカ騒ぎに目をつぶってやることくらいはやぶさかではない。自分がそれに加わるのはまっぴらだと思っていても、それがほれた弱みというものだ。
 要するに、彼がうんざりなのはほれた女の誕生日とそれに伴うパーティーではなかった。

 問題なのはヴァージニアが一つ歳をとるということだ。
 そしてヴァージニアの吹かせる姉貴風が増大するということだ。

 心底迷惑なのだが、ヴァージニアは初めて会ったときから「私の方がお姉さん」という態度をとり続け、なにくれ彼におせっかいをやく。本気で余計なお世話なのだが、正直にそう言えば彼女の機嫌を損ねるだけではなく、下手をすれば「もう! ほんと子供なんだから」というような不本意極まりない方向に事態が転びかねない。
 一応、無視するに限るという結論は出していたのだが、誕生日は厄介だった。
 誕生日が来るたびに、一つ大人になったと実感するらしい彼女は、大人になったことをてっとりばやく証明するためなのか、その直後はいつも、ことさらに彼を子ども扱いし世話をやこうとするのだ。

 ほれた女に子ども扱いされる。男にとってこれほどの屈辱はない。

 だいたい、大人っていうものは単に長く生きただけでなれるもんじゃないだろう。誕生日が来たくらいで大人になったつもりだなんて、あさはかだ。
 あいつの方がよっぽど子供じゃないか!
 
 ヴァージニアを子供だと断じたところで、そんなところが可愛いんだけどと受け流せればいいのだが、あいにくそれほど大人ではなかった彼の堪忍袋の緒が切れた。
 もう我慢できない。後で何がどうなろうと、びしっと言ってやるびしっと!
 いらぬ手と口を出してくるヴァージニアにびしっと指を突きつけ、彼は憤然と言いはなった。

 

「おまえは永遠に18歳だ!」

 

 後年、ヴァージニアは彼よりも積極的に「永遠の18歳」を振りかざしたが、果たしてそれが彼の意図に沿うものであったかどうかはまた別のお話。

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