今日という日 (サヴァイヴ ルナ)

 考えに考えて選び、絶好のタイミングで差し出した贈り物だというのに、肝心の相手が怪訝そうに目を細めて受け取らないので、ルナは思いっきり顔をしかめた。

「もう、今日は誕生日でしょ!?」

 誕生日を祝うのにふさわしい態度ではないとわかっていても、声が尖るのはどうしようもない。
 ルナの指摘に、今日二十何度めかの誕生日を迎えた青年は、そういえばと曖昧にうなずいた。そうして彼はようやく誕生日の贈り物を受け取り、丁寧にルナに感謝の言葉を述べたのだが、ルナはすっかり興がそがれてしまった。

 彼の誕生日がこういう展開になるのは、これで何回目だろう。

 自分の恋人はまめな男だとルナは思う。連絡は途切れたことがないし、近くに来るときは必ず寄ってくれる。珍しいものを見つけたと言っては折にふれ土産を寄こすし、当然ルナの誕生日を忘れたことはない。
 そんな彼が、どうして自分の誕生日のことだけは忘れてしまうのか。
 ひょっとして最初から覚えていないのだろうか。それで履歴書を書くなど誕生日の日付が必要なときは、いちいちIDカードで確認したりしているのだろうか。

 ルナが考えたことをそのまま口に出すと、彼は奇妙に眉を寄せ、そんなわけないだろうと言った。

「別に自分の誕生日を覚えていないわけじゃない」
 彼の口調には、嘘は微塵も含まれていなかったが、彼の誕生日のたびに繰り返されてきたやりとりを思うとルナは釈然としない。
「ただ、今日がその日だと認識しないだけだ」
 ルナが納得しないでいるのを見て取った彼はそう付け加えたが、それでもルナがうなずかないので、軽く肩をすくめてさらに続けた。

「たとえ忘れても別に問題はない」
「そうかしら」

 せっかく喜んでもらおうと張り切っていた気持ちが空振りに終わって不機嫌なルナは、ことさらにつんと澄まして冷たく言い捨てた。ルナとしてはそのつもりだったのだが、彼から返ってきたのは甘やかな苦笑という非常に器用な表情だった。
 そして彼はその表情のまま平然と問題ないと繰り返した。

「オレが忘れても、ルナが覚えていてくれるんだろう?」

 そんな顔で、しかも渡した贈り物を掲げてそう言われたら、もう返す言葉がない。いや、言葉を返す必要がない。
 もちろんと答える代わりにルナは、背伸びをして彼の頬に口づけた。

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