<六章 時をかける少女>
望美ちゃんの可愛らしさを堪能するイベント
やっとここまで来ましたね。
何文字書いてきたのか数えられませんよ。
いつもそばにいてくれたからわからなかったんだと、譲くんの存在を再認識する望美ちゃん。
何を見ても譲くんを思い出すっていうセリフは胸にきます。
あの(激流のような)告白に何も答えていないと、答えなければと必死に時空を越え、たどり着いた鎌倉の景時邸。
譲くんは?
と、邸中をかけまわる望美ちゃんがいじらしくて可愛らしくて、愛おしい。
譲くんを発見したのは台所。
「ああ、おはようございます、先輩」
やっと見つけた譲くん。そりゃあね、思わず胸にも飛び込むよね!!
どうしたんですかと、ひっくり返った譲くんの声には吹き出したけど。ごめん。名場面なのに。
でも、この裏返った声も、望美ちゃんの様子があまりにおかしいことに気づいた瞬間、元に戻るんですよねえ。
「俺はここにいます。だから、どうか泣かないで」
に至っては、すでに甘やかし口調にまで回復。
自分の衝撃とか動揺とかはたまた疑問とか、そういうものは全部後回しで、望美ちゃんをなだめ慰め甘やかす譲くん。それでこそ君だよ。
目の前の譲くんが幻でないことを確かめた望美ちゃんのセリフは、
「よかった・・・。本当に、よかった」
を選択しました。
うちの望美ちゃんは反射で生きてるから、もとい、その場その場の自分の感情に素直だから、もう良かったとしか考えられませんし、言えないんです。
「しばらくこのままでいてもいい?」
とかってロマンス度を上げてやれなくて、すまないな、譲。
「大丈夫、俺はどこにも行ったりしませんから」と、譲くんは重ねて慰めてくれました。
その大丈夫の言い方は……心臓に悪い(私の)。
ええと、次は望美ちゃんのセリフですね。
「私、わかったんだ」
の続きを選択しなければなりません。
「譲くんがいないのなんて、いやだよ」
え? ちゃんと想いを伝えるんじゃないの?
と横で見ていた友人には突っ込まれましたけど、うちの望美ちゃんは反射で生きてるからそんな前の決意覚えてないよ。 じゃなくて、ちゃんと生きている譲くんを目の前にしたことで胸がいっぱいになっているから、譲くんがいて良かったってそれしか考えられないんだよ。だからこれでいいのさ。
「いやだな、先輩。俺は、いなくなったりしませんよ」
譲くんは冷静に受け止めてくれました。
望美ちゃんが動揺している理由を知らないからね。当然なのかな。
それにしても、あの夜の譲くんを知っている身からすると冷静すぎるようにも思えますが、こっちの譲の方が本来の姿ってことなんでしょうね。
「いないのなんて、いやだよ」とか言われてもにっこり笑って受け止められるくらい、甘えてくる望美ちゃんにも慣れてるんだな、それなりには。
それもまた不憫だな。
望美ちゃんの甘えには、恋愛感情はこれっぽっちも入ってないって悟りきってるってことだもんな。
しかし、「ずっと私の側にいて」と続けた望美ちゃんには、「先輩、それって……」と顔を赤らめ反応あり。
この場面で、「譲ってばなんて可愛そうな子!」って思った私はおかしいでしょうか。
だって、だって、「側にいて」という曖昧な表現なのに、譲が望美ちゃん好意に気づくことができたのは、その言葉を発した望美ちゃんの態度や表情に譲の欲しかった好意があふれているからでしょう?
逆に言えば、ですよ。
あの子供の頃から春夏秋冬見つめてきました告白で、「大切」だの「好きだよ」だの、直接的な表現を使っても譲が納得しなかったのは、望美ちゃんの態度にその手の感情がかけらも見て取れなかったからってことでしょう?
あんなに激しく訴えても、それだけでは望美ちゃんの心を揺さぶることができなかったのか、譲……!
なんて可愛そうな子。
その可愛そうな子は、やっぱり一筋縄ではいきませんでした。
「あなたは勘違いしている」
と、望美ちゃんの好意をいったん否定。
しょうがないよ。
これまで何度も、舞い上がったところをはたき落とされてきたんだから。そりゃあ慎重にもなるよ。早合点して後で打ちのめされるのなんて、嫌に決まってるよ。先輩の気持ちを信じたいけど信じられないんだ。散々痛い目にあってきた彼のこれまでの経験がそうさせるんだよ。
……しょうがないよ。
「俺に近づかないで下さい」
ってそこまで言わなくても、と思うけど、それくらいはっきり言っておかないと望美ちゃんは優しくて残酷な人だから、中途半端な好意で近づいてきてるのかもしれないし、譲くんが警戒してもしょうがないんだよ。
しょうがないけど、バカなのは間違いない。でも譲くんだからしょうがないんだ(笑)。
望美ちゃんの真意を確かめるべく、譲が口にしたのは望美ちゃんに対する独占欲。
望美ちゃんに近づく奴を一人残らず葬ってやりたいというようなことを言っておりますが、そんなことどれだけやりたくてもできやしないってことは、譲自身が一番わかってるんでしょうね。それが誰であれ、先輩にとって大事な人なら、譲に手が出せるはずがないんだし。
まあそれにねえ。思うだけなら自由だし。誰だって心の中じゃ一人や二人殴り倒してるって。行動に移さない限り、それくらい問題ない問題ない。
なので、「そんなこと、とっくに知ってるよ」という選択肢にしようと思ったんですけど、反射で生きてるうちの望美ちゃんにそんな小利口な問答をさせるのもなんか違うような気が。
かといって、「勝手に否定しないで」と怒るのもちょっと違う。
「嫌いになってほしいの?」
これもなあ。なんか鎌をかけてるようにもとれるし。
でも、一番単純な受け答えだからこれかしら……?
うちの単純な望美ちゃんは、譲くんの反応が冷たかったらしょんぼりしそうだし。「知ってるよ」と笑って受け止めるのも、「否定しないで」って上からいさめるのも、大人の反応だから無理かもしんない。
しょうがない。しょんぼり路線でいきますか。
「違う! 嫌われたくなんてない!」
おや、譲くんが慌てて声を荒げましたよ。
「俺は、ずっとあなたのことが好きだったんだ」
……お腹が痛い……
譲、見事にひっかかってる。「あっ」じゃないよ(大笑)。
やっぱりこれは鎌をかける言葉なんですね。しょんぼりじゃなかった。
「うん、私もだよ」
って望美ちゃん余裕だな。うちの子にこれは無理かも(笑)。
ま、いいか。
譲が冷たくてしょんぼりしたけど、好きだと言ってもらえたので望美ちゃんもにっこりしたと。
そういうことにしよう。
ともかく、ようやく譲くんも望美ちゃんの気持ちを信じてくれました。
「俺は幸せです。世界中の誰よりも」
あんなに可愛そうな子から、世界中の誰よりも幸せな男に上り詰めた譲くんと、一緒に幸せになる約束ができました。
やっとですよ。もう長かったなあ。
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