どんぐりたちのせいくらべ

「ほら、ね?」
 ジュードは胸をそらした。
 ことさらにそんな姿勢をとらなくても、自分より下にあるアルノーの翠の瞳にむかってにんまりと笑う。
「もうアルノーを追い越したよ。これでもう僕のことおこちゃまなんて言えないね」
 長らく、ずっと低い位置で見下ろしてきた青い瞳にわずかとはいえ差をつけられて、アルノーは年に似合わぬむくれ顔になった。
「ばかいえ。身長だけ伸びたって大人と言えるか。豊富な経験と知識に勝る俺から見れば、お前なんてまだまだおこちゃまだ。なんといっても俺は一児の父なんだからな」
 するとジュードも不満げに口をとがらせた。背比べで勝ったときの笑みと比べるとずっと幼い表情になっていることに、きっと本人は気づいてない。
「そんなのずるいよアルノー。年なんて追いつけるわけないだろ」
「なにがずるいもんか。先輩ってのはいつまでたっても先輩と決まってるもんだ」
 腕組みをしてふふんと鼻を鳴らす。そんな姿で一児の父と言われても説得力がないのだが、やはり本人は気にしていないらしい。
「そういうのって屁理屈って言うんだ。そんなこと言うアルノーの方がよっぽどおこちゃまじゃないか」
「屁理屈じゃなくて真理っていうんだ。だいたい身長で勝ったくらいでおこちゃま返上を言いだすこと自体、おこちゃまの証じゃないか」
 どんどんレベルの低い方へエスカレートしていく言い争いを見守って、ユウリィは苦笑をもらした。
 母譲りの髪と父譲りの瞳を持つ少女と顔を見合わせ、肩をすくめる。
 そうしてこの場をきっとあきれて見ているであろう彼女にとっての永遠の先輩に語りかけた。
 どっちもおこちゃまです。
 ね、ラクウェルさん。

終わり

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