深い寝息をたてている娘に毛布をかけなおしてやりながら、アルノーは目を細めた。
いつも寝付きはいい方だが、今日は特に早かった。パジャマのボタンを留めている間にもうまぶたが下りかけていたし、寝入ってから少しも目を覚ます気配がない。一日中はしゃぎ回っていたから当然だろうけれど。
アルノーはベッドに腰をかけると、サイドボードの写真立てを取り上げた。そして去年の写真と先ほど現像を済ませてきた今日の写真とを入れ替える。
おろしたての服に身を包んだ娘が、いつもは店で今日のオススメ等を客に知らせているボードを胸の前に掲げている。今日そのボードにはアルノーが測って記した、娘の身長と体重、そして今日一つ増えた彼女の年齢がある。
こんなに大きくなりました。
そんな風に誇らしげにボードを示している娘の姿が微笑ましい。去年の写真と比べると、一年でずいぶん大きくなるものだと、しみじみと思う。毎日見ているとあまり気づかないものだが、娘の中に確実に時が刻まれていることを改めて実感する。
自分が贈ったドレスに大喜びで着替えてくれた娘。ただ子供らしい可愛らしさに満ちていたその顔も、少しずつ娘らしさが加わって、美人だった母親の面影が重なるようになってきた。
「こんなに、大きくなったんだぜ」
小さくつぶやきながら、娘の新しい写真を、サイドボードに置かれたもう一つの写真立ての隣に並べる。そこには親子三人で撮ったただ一枚の写真が入っている。その写真と比べると、娘はなんと大きくなったことか。また来年写真を入れ替えれば、さらにその差は大きくなる。
そのうち、体重なんて測らせてくれなくなるんだろうな。
娘の寝顔に向かって、苦笑する。なんといっても女の子だから、その辺りが微妙な年頃もそろそろ近い。ひょっとしたら、こんな写真を毎年撮ること自体が恥ずかしいと、そう反発されてしまうかもしれない。来年はまだ大丈夫だろうけれど、その次はもしかしたら写真を入れ替えることができないかもしれない。
けれど。
きっと自分はそれを寂しく思いながら、それ以上に嬉しくなってしまうのだろう。娘が変わっていくこと、それは娘が成長しているということだから。どんな変化でも嬉しいなんて、親ばかにもほどがあるという自覚はある。しかしアルノーはそれでいいと思う。
俺たち二人の娘だもんな。いい大人になるに決まってるんだ。
なあ、ラクウェル。
サイドボードの古い方の写真。そこに微笑む妻に、アルノーも微笑みをむけた。来年も、その次の年も、二人でお祝いしてやろうなと語りかけながら。