いつも一つだけ

 バレンタインにチョコって、どこでもやってることじゃないんだな。
 ロカA2では当たり前だったからさ、本当はかなりマイナーな行事だって全然知らなかったんだ。この前映画の現場で、今までどのくらいチョコをもらったことがあるのかって共演者連中に聞いたら、なんだそれって言われてびっくりした。みんなでよってたかってこのぼくを指さして笑ったんだぞ! ひどいと思わないか?
 なんだよ、一緒になって笑うなよ。
 ったく。……まあそれでさ、この話には続きがあるんだ。どこから聞きつけたんだか、ほらポリマ製菓、知ってるだろ? そこから、このぼくをCMに使って「バレンタインにチョコを贈ろうキャンペーン」をやりたいって話がきたんだ。
 ほら、これがそのときもらった企画書。ああ、いいぜ。見ても。
「愛で溶かして、とろけるキッス」
 なんだよ! 笑うなよ!
 書いてあるだろ、ここに。ほら!
 失礼な奴だな。
 え? CM見たことないって?
 そりゃそうだ。撮ってないからな。
 そう、断ったよ。ぼくがキャンペーンをはれば一気にバレンタインがメジャーな行事になって、ぼくを笑った連中に一泡吹かせてやれただろうけどさ、やめておいた。
 だってさ、考えてもみろよ。バレンタインがメジャーになったら、ぼく宛のチョコがいったいいくつ届くか考えるだけで恐ろしいじゃないか。いくらぼくが甘いもの好きでも、家がチョコで埋まるのはぞっとしないからな。
 だから笑うなって。笑うところじゃないだろ。
 知ってるじゃないか、ぼくが誕生日プレゼントをどれだけもらっているか。あれが全部チョコだったらって考えてみろよ。
 ほらみろ、ぞっとしないだろ?
 いいんだよ。笑われたままになるのはちょっとくやしいけど、ぼくはこれでいい。
 バレンタインにもらえるチョコは一つで充分だ。

 今年も手作りなんだな。
 ありがとう、シャアラ。

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