「じゃあ、チャコ。私カオルを送ってくるわね」
「ああ、なんなら帰ってこんでもええでー」
三日月の目で手を振ってくるチャコに笑って手を振り返し、ルナはカオルと並んで部屋を出た。
閉まった扉の前でチャコはお手上げのポーズをとった。
ああ、ほんまにつまらん二人になってしもたわ。
少し前まであんなにからかい甲斐があったというのに。ぽてぽてと音を立ててチャコはソファに戻りその上に転がった。
「べつに部屋借りる必要なんてないと思うねんけどなあ」
ただとちゃうのにもったいないと、チャコはカオルの土産のジュースをコップについだ。自分が邪魔なら、少しの間研究所で寝泊りするくらいなんということはないのに、カオルはいつも自分の泊まる部屋の手配を依頼し、送っていくルナもいつも必ず帰ってくるのだ。
帰ってこーへんかったら、うちに何言われるかわからんってか。
行儀悪くずずーっと音をたててストローを吸う。そんな心配をされているなら全く心外だ。宇宙のどこを探しても、自分ほどあの二人の幸せを願っているものはいないと思うのに。
ずずっとジュースの最後の一滴を飲み干す。カオルの土産のそれは、いつものことながらチャコの好みによくあった。
ほんまにええ男になったもんやわ。
カタンとコップをサイドボードに載せて、チャコはディスクの再生機に歩み寄った。ハワードのディスクが入りっぱなしになっているので、片付けようと思ったのだ。
取り出しのボタンを押そうとして、チャコはその表示画面に首をひねる。
「なんや、まだ何か入っとんのか?」
笑いながらではあったが、映画はエンドロールの最後まで流したはずなのだが。
なんだろうと、とりあえず再生の操作をしたチャコの目に飛び込んだのは、宇宙一のアクターハワード様の画面いっぱいのアップであった。
「やあ、素晴らしい映画だっただろう? 特にこの僕の演技には感動したんじゃないかい?」
大仰な身振りとともに、そう口上を述べる大俳優様に、チャコの口が大きく開いた。
「さて、この僕の出演作を見るのが今回初めてだという、気の毒な君のために、この僕自らが、スペシャルな映像満載でこの僕の他の出演作を紹介してあげようじゃないか。何しろ非常に数が多いからな。この次に何を見るべきか迷ってしまうだろうと思ったのさ!」
カメラがひいて、ハワードの全身がうつる。
このやたらとキラキラびらびらしている、王子だかどこかの演歌歌手(宇宙時代にもコアなファンのために演歌は生き残った)だかコンセプトのよくわからない衣装は自前なのだろうか。そして胸に輝く「H」のペンダントは彼にとっては必須のアイテムなのだろうか。
「これから、出演順に僕の作品を解説していこう。そしてこのディスクの最後には、僕のプライベートも多く収録した豪華映像集が収録されているから、楽しみにしていてくれたまえ」
そして、目の前で展開するハワード様名演集(ご本人による解説つき)を前に、チャコの口は大きく開いたままだったが、今度は笑いはもれてこなかった。