ハワードが家を継がずに俳優になると言いだしたとき、驚きはしたがそう意外には感じなかった。
しかし、初めての映画出演で彼自身が望んだという役が、おせじにも二枚目とは言えないような騒がしいお調子者だったことは意外だった。
自分にはまるで普段の彼そのものであるかのように見えて、まさにはまり役だと思えたのだけれど、彼自身が人からそう見られたいと望んでいるとは思っていなかったからだ。
その後も三枚目を演じ続け、銀河系きってのコメディスターとして名を馳せ続けているハワードに、どうしてかっこいい役を欲しがらないのかと尋ねてみる機会があった。
彼は少し照れくさそうに笑って、答えてくれた。
「島の最後の夜にさ」
短い前置きだったけど、自分達にはそれがいつどこでのことなのかすぐにわかる。自分達にとって「島」といえば一つしかない。
「みんなしてぼくを笑ったことをおぼえてるか?」
もちろん覚えていたけれど、受け答える表情の選択にとまどった。ハワードがどんな気持ちであのときのことを持ち出したのかわからなくて。怒っているのか、ひがんでいるのか、今更ながら笑った自分達をとがめているのか。
するとハワードはにやりとして、そんな顔をしなくてもいいと言った。怒っているというわけではないみたいだ。
「あのときさ、最初はそりゃむかっとしたんだけど、でも笑ってるみんなの顔見てたら、なんかぼくも楽しくなってきてさ、で、結局一緒になって笑ったんだけど」
そこまで言ってハワードは急に視線をそらした。遠く空の向こうへ向けた目は、何かを探しているようだった。
「あの日に、ポルトさんに言われたんだ」
その言葉で彼が何を探していたのかわかった。自然と自分の目もここではないところへ向かってしまう。
「ぼくといると笑顔になれるって。それに、笑うと元気がでるってさ」
その人が自分にかけてくれた言葉はどういうものだったろうか、それを思い返しながらうなずくと、ハワードがこちらを向いた。そうして、にかっと、その頃から変わらない屈託のない笑顔を見せた。
「あのときみんなで笑い転げてたときみたいにさ、いつもできるといいなと思ったんだ」
長く不思議に思っていたことに対する答えがこんなにも優しいものだったことが、嬉しい。笑顔を返しながら、とても幸せな気分だった。
「ただ、やりすぎはだめだってことも言われたんだけどさ、その加減だけは今でもわかんないんだよな〜」
心底まいったというように付け加えられた言葉に、俺は思わず吹き出した。