第二十話  ア・ダ・ム

「そうですか〜。アダムという名前はハワードさんがつけたんですか〜」
「うんそうなんだ。アルデュラムギェットっていうのは、僕らには呼びにくいからね」
 シンゴとタコはすっかりうち解けていた。
 最初は奇妙だと思っていたタコの体型や動きも、見慣れてしまえば愛嬌があってなかなか親しみやすい。
 機械の操作などについて色々教わっているうちに、いつしか話題はアダムのことになった。
 アダムを見つけた経緯や、アダムがみんなになじんでいった様子などを、少しずつ思い出しながらタコに話していく。タコはなかなか聞き上手で、にこにこしながら嬉しそうに続きをせがむので、シンゴの口はいくらでも動いた。それでも話しきれないほどたくさんの思い出は、つい昨日のことのようにも、はるか昔のことのようにも思えて、シンゴは不思議な気分だった。
「でも不思議なんだよね」
 不思議といえばもう一つ思いついたことがあり、シンゴはそれを口に出した。
「何がです?」
「さっきも話したけど、ハワードのせいでアダムはメノリにものすごく怒られたんだ。でも、アダムはメノリを恐がらなかったんだ」
「今も仲がいいですよね」
 のんびり答えるタコにシンゴもうなずいた。
「そうだよね。まあ今はさ、メノリが本当は優しいってことアダムだけじゃなくてみんな知ってるし、仲良しでもおかしくないんだけど、でもアダムは最初からメノリになついてたんだよね」
 怒ったメノリははっきり言って相当恐い。それに、初めのころのメノリの態度は怒っていないときでも結構アダムにきつかった。小さな子供がなつくようには到底思えないのに、アダムは怒られても怒られてもメノリに寄っていった。それがシンゴには少しばかり不思議だったのだ。
「あれはさ、やっぱり……」
 一目惚れとかお母さんに似てるとかそういうことなのかな?
 そんなふうにシンゴは思ったのだが、タコは不思議がる様子もなくあっさりと「そりゃあそうでしょうね」と言った。
「ええ?」
 顔をしかめたシンゴとは対照的に、タコの方はうんうんと何度もうなずいては「そうでしょうねえ」とくり返す。
「一人で納得してないで、どういうことか僕にも教えてよ」
 当然シンゴは面白くない。口をとがらせてそう要求すると、タコはにっこり笑って答えを言った。
「ご両親の教育の賜ですよ」
「ご両親の教育?」
 オウム返しにシンゴがくり返すと、タコはまたうんうんとうなずきながら説明を加えてくれた。

「集団の一番偉い人に気に入られるようにしなさいと、睡眠学習といいますか、深層心理に教え込まれているのです。アルデュラムギェットが目覚めたとき、側にいる人がどのような人なのかわかりませんでしたからね。アルデュラムギェットに危険がないようにと、ご両親は心配なさったのです。親の愛は偉大ですね〜」

 タコは感心しきりといった様子で、まだうんうんとうなずきを止めなかったが、シンゴはへぇーと力ない相づちを打つことしかできなかった。

 それって、長いものには巻かれろってことだよね。

 親の愛といえば親の愛なのだろうけれど、これはメノリには言わない方がいいんだろうなとシンゴは遠くを見る目になった。

終わり

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