第十四話  声が聞こえた

「今日も大収穫やでぇ〜」
 上機嫌で帰ってきたチャコは両手にいっぱいいもを抱えていた。チャコと一緒の係りだったシンゴの腕の中にも同じようにいもがある。
 一足先に戻っていた他の仲間たちは、二人の収獲に顔をほころばせた。今日は魚があまりとれず、夕飯は果物だけかと思っていたところだったので感激もひとしおだった。やはりいもがあると果物だけの時とは満腹感が違う。
「待ってました! さあ、早く夕飯にしようぜ!」
「ハワードったら。お料理が済まないと食べられないわよ」
 すきっ腹を抱えていたハワードが飛びあがるとチャコからいもを受け取っていたシャアラが笑みをこぼした。
「だから早く作ってくれよ」
「ちょっと待て」
 ハワードは待ちきれないとばかりに足踏みをしながら催促したのだが、そこに口を挟んだのはメノリだった。
「シャアラ、そのいもは残しておいてほしい」
「え? どうして?」
「そうだよ。今日は他には果物しかないんだぞ」
 ハワードは不満げに口をとがらせたが、メノリは要求を撤回しようとはせず、思いがけないことを言い出した。
「これで畑を作る」
「はたけぇ!?」
 ハワードは語尾とまゆげを奇妙な形に上げた。他の仲間もメノリの唐突な提案に目を丸くしたり口を開けたりしていたのだが、メノリはみんなのそんな顔にぐるりと視線をめぐらせるとさらに口を開いた。
「今までのように今日手に入ったものを今日食べるというやり方では、日によって食事の量にばらつきが出てしまう。これまでも収獲の多いときには残ったものを倉庫に保存するようにしてきたが、それだけではやはり足りない。継続的に食料を手に入れる方法を考えるべきだ」
 いつもながら理路整然としたメノリの主張に、真っ先にのってきたのはベルだった。
「いい考えだと思う。いもは育てやすい植物だし、きっとうまくいくよ」
「そやなあ。確かに植えといたらそれなりに育つやろけどなあ」
「そうなの?」
 思案げにあごに手を当てるチャコにルナが声をかけると、チャコは眉間にしわを寄せたまま答えた。
「まあなあ。せやけど大変やで。みんなの分賄うだけの収獲を考えたら結構な広さの畑が必要やし。いくらほっといてもええって言ったかて、水はやらなあかんしなあ」
 チャコの返答にルナも考え込んだ。チャコと同じようにあごに手を当てて目を閉じ、うーんと声をあげる。しかしルナがそうしているのも長くはなかった。あごから手を放して顔を上げると、力強く一言、やろうと言った。
「大変かもしれないけど、やってみようよ。ううん、やるべきだと思う。メノリの提案はもっともだわ」
 ルナの言葉にシャアラもうなずいた。
「そうね。狩りは無理だけど、畑仕事ならわたしにもできると思うし」
「この辺りは湖に近いだけに土が柔らかい。畑には充分だろう」
 すでにあたりをつけているのか、みんなのいえに程近い場所に視線を流しながらカオルも言った。
「フェアリーレイクがあるから水遣りも楽だし、日当たりだって充分だしね」
「ま、みんなが乗り気なんやったら、大丈夫やろな」
 ベルは笑みを深くしてカオルの言葉を補足し、チャコも難しい顔を解いた。仲間の反応を見ていたメノリとルナは視線を合わせてうなずいた。
 話は決まった。
「それじゃあ、明日から忙しくなるわね」
「畑を耕す道具がいるよね。カオル、作るの手伝ってくれるかな」
「ああ」
「ええと、それじゃあこのおいもは残しておくのよね」
「全部残さなくてもいい。今日の夕飯にも使ってくれ」
「せやせや。腹が減ってはなんもでけへんからな」
 


 新しい課題を見つけて盛り上がる仲間達だったが、「畑なんて面倒くさい。やっぱり男は狩りだよな」とこぼすハワードと、いもが育つまでここにいるのだろうかとぼんやり考えるシンゴだけがそれに加わらなかった。

終わり

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