第九話  きっと仲良く暮らせる

 いえづくりは考えていた以上に大変な作業だった。
 土台に使う木を切るだけでもみなへとへとになってしまったが、当然切っただけでは使えない。必要な長さや形に加工して、そして何よりも「大いなる木」の上に運び上げなければならないのだ。いえは木の上につくることになっているのだから。

「どうやって上にあげればいいのかしら」
 木の下にまでひきずってくるだけでも大変だったのにと、シャアラが不安そうな声をもらしたが、大丈夫だと意外なほど軽く請け負ったのはベルだった。
「木につるを結びつけて、あの辺の枝にそのつるを通せば引っ張り上げられるよ」
「つるは何本結べばいいの?」
 ルナの問いに対する答えも軽快だった。
「両端に一本ずつと、中央に一本」
「じゃあ、三人でひっぱるんだね」
 シンゴが応じるとベルは今度は首を振った。
「いや、中央の一本は引き上げた木を上で引き寄せるためのものだ。引き上げるのに使うのは両端の二本だけだよ。俺とカオルが下で引くから、誰か上で受け取ってくれ」
「二人だけで大丈夫なの?」
 シャアラがそれでも心配そうに首を傾げたが、ベルは今度も笑って請け負った。
「この木はせいぜい70kg〜80kg程度だろうし、二人で大丈夫だよ」
「どうしてわかるの?」
 カオルを除いた仲間達は目を丸くしたが、ベルはなんでもないことのように笑った。

「見ればわかるよ」

「み、見ればわかる、の?」
 ややひきつったルナの表情にベルは気づかなかった。つるを木に結びつけるためにしゃがみこみ、早速作業を始めていたからだ。だから今度も彼はさらりと何気なく答えた。

「そうだね、だいたいはわかるよ」

 ……こうした広葉樹の比重はだいたい0.6くらいなんだ。この木の直径と長さを考えれば体積はわかるし計算すればだいたいの数字はでるよ。それにさっき運んだときの感触からいっても持ち上げられないことはないと思うよ。
 カオルと一緒につるを結びながら、ベルは詳細な解説を加えていたがそれに感心していたのはシンゴとチャコだけだった。

 その後、女の子達がベルの視線を避けるようになったことに、ベルは気づきはしたが、どれほど考えてもその理由がわからず、しばらく困惑することになった。

終わり

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