ハワードは動転していた。
シャアラは動揺していた。
そしてコンピュータサヴァイヴはといえば、ほとほとうんざりしていた。
そもそも二人がここにいるのは、サヴァイヴの意図したことではない。この惑星の地下を流れる水路には普段からメンテナンスのためにドローンを巡回させている。そのドローンがどういうわけか水路に迷い込んだ二人を発見したのだ。
とうの昔に全滅させたはずの人類に生き残りがいるとわかったとき、それはサヴァイヴにとっても意外なことではあったが、重大な手落ちであるとは考えなかった。たかが一人だ。この惑星の環境を元通りにするというサヴァイヴの任務に支障があるとも思えない。
ただし気になることはあった。ここからもほど近いテラフォーミングマシンで見つけたあの少女。
この惑星の人間ではないようだが、何か不思議な力を感じた。あるいはこの惑星の人間ではないからこそ持っている力なのだろうか。
それが吉と出るか凶と出るかはいまだ不明だが、だからこそ調査すべき対象だと判断した矢先のことだったのだ、二人の発見は。ゆえに、何かの役には立つかとここまで連れてこさせたのだったが。
「パァパー!!!」
コンピュータであるがゆえに、それが何度目の叫びであるかは、サヴァイヴにとってわからないことではなかったが、あえて数え上げようとはしなかった。ただひたすらに不快な感覚がつきあげる。
特に拘束しているわけでも、何か刺激を与えているわけでもないというのに、なぜこの少年はここまで大騒ぎができるのか。
「いったいどこなんだよここは!」
「お前なんか、こ、怖くなんてないんだからな!」
「いったい、僕たちをどうするつもりなんだ!」
「い、いいか。僕に何かあったらパパが承知しないからな!」
「もう何がどうなっているんだよ」
「ハワード、少し落ち着いて」
少年の口も手足も一向に動きを止める気配をみせない。フロアーをうろうろと歩き回っては奇声をあげる。そんな少年に少女が幾度も声をかけてなだめようとしている。
少女の懸命な言葉はコンピュータである自分にすら届いているというのに、この少年はどうして一度もそれを聞こうとしないのか。
「パァパー!!!」
もはやサヴァイヴにも何度目なのかわからなくなってきたその叫びが響き渡ったとき、サヴァイヴはその少年から話を聞くことをあきらめた。