「この先に行ったらメインコンピュータに出る」
奇妙な機械をなんとかかわしたルナ達はチャコの言葉に従って歩き出した。
所々空いた天井から光の差す薄暗い水路をたどりながら、話題はシンゴとメノリを救ったハワードの手鏡のことになった。
「しかしそんなんでよう助かったもんやなあ」
「確かにな。助けられた私が言うのもなんだが、今こうして無事でいるのはなかなかに信じがたい」
「ハワードが、助けてくれたんだよ」
シンゴがかみしめるようにそう言うと、皆、ここにいない二人を思って感慨にふける表情になった。
「でも、その鏡にはこれまでも結構お世話になったわね」
思い出をたどってルナが言うと、みなそれぞれうなずいた。
「そうだね。寝癖がひどいときとか貸してもらったよ」
「どんな状況であれ、身だしなみは気を配るべきものだからな」
「鏡っちゅうのはレディの必需品やし」
「チャコはいらないでしょー?」
髪をかきあげるようにして耳をなであげたチャコの言葉に、ルナが笑いながら口を出すと、つられて他の者も笑い声をあげた。
島での生活で鏡と言えば通常はフェアリーレイクのことだった。澄んだ湖面に顔を映せばそれで充分事が足りる。けれどそこは十代の少年少女達。やはりゆらゆらとぼやける湖面ではなく、はっきりと映る鏡が欲しいこともある。そんなときはいつもハワードに手鏡を貸してもらっていたのだ。
初めのうちこそ「なんで僕が」というようなことを言っていたハワードだったが、そのうち(それがどんな内容であれ)みんなにあてにされるということが嬉しくなってきたらしく、気前よく貸し出してくれるようになっていたのだ。
「もう、借りられなくなっちゃったわね」
ひとしきり笑った後でルナが寂しそうに声を落とした。
シンゴの手の中のケースに皆の視線が集まる。それにはもう鏡はついていない。粉々に砕け散って無くなってしまった。
もう、あの鏡をのぞき込むことはないのだ。
再びしんみりとした雰囲気の中、ベルがぽつりとつぶやいた。
「明日からコンタクトつけるときどうしようかなぁ」
『え!?』