「なにやってるんだ? カオルのやつ」
ある日ハワードはカオルが何かを飛び越えるような動作をしているのを目撃した。
確かに何かを飛び越えるような動きに見えたのだが、その足元は凹凸すらないただの地面で、飛び越えなければならないようなものは何も見えない。カオルは一体何をやっているのか。
不思議に思ったハワードはカオルが去った後、その場所に近づいてみたのだが、そこにはやはり黒々とした土があるばかりで、どうしてカオルがそこを通るのにわざわざジャンプしたのか、その理由はさっぱりわからなかった。
疑問にしろ何にしろ、胸にためておける性質ではないハワードは、早速カオルに何をしていたのか尋ねてみたのだが、返ってきたのは一言。
「おまえもやってみればいい」
それだけ。
ハワードの疑問は何も解決されなかった。
元来素直な性格のハワードは、言われたとおり例の場所へ行ってカオルと同じ様に跳んでみた。しかしそれでもやはり、何もないところでわざわざ跳んだカオルの真意はわからない。
「なんなんだ? あいつ」
ハワードは首をかしげるばかりであった。
数日後、ハワードは同じ場所でカオルがまた何かを飛び越えているのを目撃した。
今度はその足元に何か緑色のものが見える。
近づいてみると、それは何かの植物の芽だった。小さな葉が三枚ついたその高さは数センチほど。カオルが跳んだ位置からして、この上を飛び越えたことに間違いはなさそうなのだが、たった数センチのこれをわざわざジャンプで越える必要などあるのだろうか。
再びハワードはカオルにその疑問をぶつけてみたのだが、返ってきたのは同じ言葉。
「おまえもやってみればいい」
今度もハワードは同じように跳んでみたのだが、やはり疑問は解決されなかった。
しかしまたその数日後、ハワードの疑問は解決された。
おそらくカオルがそこに植えたのだろうが、その植物はすさまじいスピードで成長し、その高さが日ごと目を見張るほどに増していくのだ。
「おまえもやってみればいい」
何日かはハワードも、カオルに言われるまま一緒にそれを飛び越えていたのだが、それはすぐにハワードの手には負えなくなってしまった。
「どこまでいくんだよ、あいつ」
とうにハワードの身長すら超えて伸びた植物を、それでも軽々と飛んでしまうカオルを、ハワードは半ば感心し、半ばあきれながら見物していた。
今のハワードにはカオルが何をしていたのかわかっている。要するに跳躍力を養うための修行ということなのだろう。そんなことをしなくても充分高い能力をもっているくせに、まったく物好きなことだ。
それに、だ。
修行なら自分がすでに跳べる高さは省略してもいいのではないだろうか。少なくとも芽すら出ていない地面の上まで跳ぶ必要はないと思うのだが。
本当に物好きなやつだと、ハワードは肩をすくめた。