第三十六話 とても大事な仲間です

 待ちかまえていたメールが届いた。
 メールの受信画面に表示された送信元は、確かに自分が熱いラブコールを送った相手だ。
 一緒に届いたいくつかの他のメールには目もくれず、その大切なメールを選択する。けれどなかなかそれを開く勇気が出ない。あと一回キーを叩けばメールが開く。そこまでの操作を終えた体勢で、モニターを凝視する。
 もしこのメールが望んだ内容じゃなかったら。
 そうだったときのために心の準備をする時間が欲しかった。メールの送信元はわかっても、件名は表示されないように画面を設定してあるのもそのためだ。おそらく件名だけで、中味の九割はわかるようなものがついているに違いない。メールの受信を知ると同時に結果までわかるというのは心臓に悪いと思ったのだ。
 放っておけばどこまでも速くなっていきそうな呼吸と鼓動を落ち着かせるために、二つ三つ深呼吸をする。その後に苦笑を一つ付け加える。口の中がからからになるほど緊張している自分がおかしかったのだ。
 何も、こんなに固くなることはないのだ。例えこのメールが悪い結果を知らせるものであったとしても、またやり直せばいいだけの話だ。もう一度アタックしてもいいし、別の相手を探すのもいい。なによりメールが届いている時点で結果はもう出ているのだ。じたばたしてもその結果が変わるわけじゃない。読むのが早くても、遅くても、たいした違いはない。
 だから、読もう。
 えいっと気合いを入れてキーを叩く。最後の悪あがきとばかりにぎゅっと閉じた目をおそるおそる開く。画面一杯に表示された文面を、薄目の細い視界で追って。
「いやったー!!」
 右手を天井高く突き上げて、愛用のいすから跳び上がった。
「シンゴ!? どうしたの!?」
 あまりの大声を聞きつけて、両親と妹、弟が部屋に飛び込んできた。
「やった、やったよ! 合格だって!」
 右手と左手、右足と左足を交互に高く上げ下げしながら、笑顔で振り返り報告する。
 本当は、家族が自分の声を聞きつけてきたわけではないことは知っていた。メールを開くかどうかでぐずぐずしていた自分の背中に、何本もの気遣わしげな視線が向けられていたことくらい、ちゃんと気づいていたからだ。
「ほんと! よかったわね、シンゴ」
「お兄ちゃん、やったね!」
「ありがとう」
 次々に贈られる祝福の言葉と抱擁を受ける。
 のぞき見されていたことに腹は立たなかった。それだけ家族も応援してくれていたということなのだから。
「やったな、シンゴ。でも本当に大変なのはこれからだぞ」
「うん」
 肩に手を置いて力強くそう言ってくれた父に、力強くうなずきを返す。
 そしてシンゴは壁にかけてある、使いこまれたオレンジ色のジャケットに視線を送った。
 ポルトさん。僕、あの時の約束、必ず守るよ。これから銀河中を飛び回って、ポルトさんみたいに色々なものを見て、そしてポルトさんの息子さんも見つけてみせるからね。

 ――彼が待ちかまえていたメール。その件名には「採用通知」とあった。

終わり

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