「僕の弓の腕前を信じろよ。毒でやられた仕返しをしてやる」
そう言ってハワードが矢をつがえた。その姿にそう古くない記憶が重なる。
『その時はこれを使うさ』
まだこの惑星に降りたばかりの時のことだ。危険な生き物がいたらどうするのかという私に対し、ハワードはそう言ってレーザーガンを掲げて見せた。
『今に僕の腕前を見せてやるよ』
そうして壊れたシャトルの中で、レーザーガンをあちこちに向けて得意がるハワードの姿を、私は非常に苦々しい気持ちで見ていたのだ。この非常事態をまったくわきまえようとしないその様子が腹立たしくて仕方がなかった。そのようなときにこそ規律が守られるべきだというのに、規律が守られるどころか、ハワードが騒動の原因となるであろう事はまず間違いなかった。
あの時は私も思いがけない状況に陥ったことで苛立っていたし、ハワードの存在自体が迷惑そのもので有害だとすら思っていた。
ハワードのつがえた矢の先が陽光に光る。
今それを見ている私の心は、しかしささくれたものではなかった。
なぜだろう。
ハワードの言葉が身の程知らずなのは今も変わらないというのに。あの時のハワードに危険な生き物――例えばあの海蛇をレーザーガンでどうにかする力量などなかったように、今ハワードと脱獄囚との実力差も明らかだ。
けれど。
矢を下ろしたハワードがふとこちらを向いた。
「なんだよ、メノリ。そんな顔するなって。僕がいるんだから大丈夫さ」
私がどんな顔をしていたのだか知らないが、ハワードがそう言って胸を叩いた。その上自信ありげに、にやりと笑う。
そんなハワードを見ているうちに、思わず私の口元もゆるんでいた。
まったく、こいつにはかなわない。
そんな言葉まで浮かんでくる。
しようのない奴だという思いは今も確かにあるのだが、その存在すら迷惑だと思っていた頃と、私のハワードに対する気持ちはずいぶんと違ったものになっているようだ。
では、今はハワードをどう思っているのか。
その問いにはまだ答えない。私は脱獄囚を足止めするための打ち合わせをするべく、ルナとベルに向き直った。