第三十話 どうすればいいの

「じゃあ、私たち帰れるの?」
「とりあえず、この惑星からは……」
 ルナに答えたチャコの言葉はそこで止まった。ハワードの大声に驚いて飲み込んでしまったのだ。
「やったー! 帰れるぞー!」
 両手と共に上がったハワードの声は本当に大きかった。しかもそれで終わりではなかった。跳び上がり、部屋の中をくるくると駆け回る。病み上がりなのにと心配するルナの言葉すらハワードは笑い飛ばした。
「これがはしゃがずにいられるかー!」
 ハワードの喜びは大きすぎて、一人ではしゃぐだけでは物足りなくなってしまったらしい。シャアラがハワードの大騒ぎに巻き込まれてしまった。ハワードに手を取られて、まるで乱暴なダンスを踊るかのように振り回される。
「ちょっと止めてよハワード」
 そう抗議したのは、しかし一瞬だった。シャアラもたちまち笑顔になってハワードと楽しげに言葉を交わし始めた。それを見守るベルとメノリからも笑顔がこぼれる。やっと帰れそうだという見通しがたって、久しぶりにみんなの気分が明るくなった。
「やったんだ。やったんだよ、僕たち」
 うう、と感極まったシンゴがにじんだ涙を袖でぬぐった。
「泣かんでもええがな」
 それにはさすがにチャコが呆れた声をあげた。

 実のところ、チャコはこの大騒ぎに加わる気分ではなかった。
 先ほどルナに言いかけた言葉、「とりあえずこの惑星からは出られるな」。
 それはつまり、「この惑星からは出られるけれど、コロニーに帰れるかはまだわからない」ということなのだ。
 ここはどうもロカA2からずいぶん遠いらしい。以前からうすうすそうじゃないかと考えていたことだが、重力嵐に巻き込まれてここに来たというポルトさんの言葉で、それが限りなく確信に近い事柄となってしまった。
 ワープする船から取り残されただけなら、ロカA2はすぐ近くにあるはずだ。しかし、重力嵐のせいで飛ばされてしまったのなら、ここがいったいどこなのか見当もつかない。重力制御ユニットを修理してこの惑星から脱出したとしても、どっちにむかって行ったらいいのかさっぱり分からない状態なのだ。
 それに、誰が操縦すんねん。
 まだ回っているハワード達と泣くシンゴを見てチャコは小さくうなった。
 コロニーが近いなら、とりあえず惑星から脱出できればそれでよかったのだ。救難信号を出して漂っていればどこかの船が拾ってくれるだろう。しかし、ここがコロニーから遠いのならそうもいかない。ひょっとしたらワープもしなければならないかもしれない。ポルトさんはメカニックでパイロットではない。そこまで高度な操縦となると、彼に任せるわけにもいかないだろうが、それなら誰が出来るというのか。
 眉毛を八の字にしてチャコはもう一つうなった。が、すぐにまあいいかと思い直す。
 重力制御ユニットの修理が終われば、とりあえず目の前の問題は解決するのだ。のどから手が出るほどみんなが欲しがっていた宇宙船が手に入り、脱獄囚からも逃げられる。後の問題はそれに直面したときに考えればいい。
 わざわざここでみんなをがっかりさせることもないやろ。
 脱獄囚も迫っているようだ。地形データを分析されているのなら、幻影を突破されるのも時間の問題だ。まずは当面の課題である重力制御ユニットの修理に専念しようと、チャコは気合いを入れ直した。

終わり

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