第二十九話 ぼくにもやっと

 思ったよりひどいな。
 めちゃくちゃになったシャトルの中で、シンゴは目を伏せため息をついた。
 自分たちは運がいいのか悪いのかわからない。
 修学旅行で重力嵐に遭遇するなんてそれだけでもまずありえないというのに、自分たちの乗ったシャトルだけがとりのこされ、その上こんな惑星に降りることになるなんて。
 大気圏突入の後も嵐のせいでシャトルが壊れるは、大海蛇には襲われるはで、もう散々だ。
 それでもこうして全員が生きているのだから運がいいと思うしかないのだろうか。
 とはいえ、目の前の損害にそう考えようとする気力も萎える。
 シンゴはとりあえず機材の状況を確認し始めた。
 えーと、この辺はレーダー関係で、こっちはっと。どこもひどいなあ。通信機はどのあたりかな。
 ちいさくつぶやきながら一つ一つ確認していくシンゴの目に、ひときわ大きく赤いボタンが留まった。
「これは……」
 シャトルの切り離しスイッチだ。
 そこも他に漏れず、盛大に壊れていた。もともと壊れていたのか、重力嵐またはここに不時着したときに壊れたのか、判別することは不可能だった。
 だからこれが作動したことでシャトルが切り離されたのか、それとも別の原因があったのか、それはどうやってもわかりそうにはなかった。
 ただ。
 シンゴは動作を止めてじっとスイッチを見つめた。
 切り離しスイッチのある位置。右の操縦席の正面の上部というその位置。
 もし、このスイッチが壊れていなくて、あのとき重力嵐の中で作動したのだとしたら。このスイッチが押されたしまったのだとしたら。
 これを押すことができたのは、ここに座っていたハワードしか、いない。
 シンゴはしばらく沈痛な面持ちでそれを見続けたが、やがて首を振って息をつき、知らないうちに強ばっていた肩の力を抜いた。
 まあ、いくらハワードでも、これを押したりはしないよね。
 いくら考えたところでここまで機械が壊れているのでは答えがでるはずもないし、もし本当にハワードのせいだったとしても、今さらどうしようもないことだ。
 そのうち助けも来るだろうし、文句を言うのはコロニーに帰って原因がはっきりしてからでも遅くはない。
 少しでも早く帰るためにも、通信機を直さないと。
 シンゴはライトを握りなおした。

終わり

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