第二十五話  未来のために

「アルデュラムギエットの未来のために」

 記憶の底から母がかけてくれた言葉が鍵となって操縦室の扉が開いた。
「いこう!」
「よっしゃー!」
 シンゴとチャコが勇んで中へ駆けていく。が、後を追おうとしたアダムの足が止まった。この前環境制御ルームで襲われた怖い記憶が蘇ってきたのだ。
 操縦室へ入るに入れず、すくんでいたアダムの耳に。

 カーン!
 
ゴーン!
『わああ!』

 突然、何だかわからないが高く大きな二つの音と二人の悲鳴が響き、アダムの肩がびくりと跳ねた。
「シンゴ! チャコ!」
 怖いのを振り切って操縦室に駆け込むと、二人が倒れ伏していた。
「シンゴ!? チャコ!?」
 慌てて駆け寄ってみれば二人は大きなこぶを作り、目から飛び出した星を頭の上でぐるぐる回している。そしてその傍らには。
「か、金だらい……?」
 信じがたい光景にアダムは呆然とつぶやく。場違いこの上ないことに、二人の頭の形にへこんだ大きな大きな金だらい二つ転がっていた。
「と、突然たらいが落ちてきて……」
「あ、あかん。まだ目が回る……」
 起きあがれず転がったままそうつぶやく二人にアダムは息をついた。とりあえずたいしたことがなさそうでよかった。

しかし。
 
「学習能力っちゅうもんがないんかい、お前らは!」
 なおも星を飛ばし続ける二人に、そうハリセンを一閃させるべきか。

「なんでたらいやねん!」
 この罠を用意したのであろう自分の両親に、胸中で裏手パンチをかますべきか。

 突っ込む相手を決めあぐね、アダムは再び呆然と立ちつくした。

終わり

前のページに戻る