第十五話 何もかもが大きな森

「大丈夫か、ルナ」
 顔をしかめて両手で頭を押さえるルナに声をかける。今朝からずっと頭痛に悩まされてた様子だったけれど、今度は相当痛むらしい。
「しっかりしろ!」
 何度か声をかけていると、ルナは唐突に顔を上げて驚いたように空中を見つめた。
「大丈夫なのか、ルナ」
 俺の呼びかけに、何か俺にはわからないものを見ていたルナの視線がようやく戻った。
「もう大丈夫よ」
 ルナは笑顔を作って、俺を見上げた。
「びっくりさせるぜ」
「ごめん」
 ハワードに謝るルナはいつも通りだったけれど、大丈夫だというその言葉があっても、俺の気分は晴れなかった。
 だいたいルナはいつも、大丈夫かと訊けば大丈夫だと返す。リーダーになる前も、なってからも常に明るく前向きで、元気いっぱいに動き回っている。そんなルナにみんな励まされてここでの生活を乗り切ってきた。
 俺もずいぶん影響を受けていると思う。何をするにも自信が持てなかった俺が、何か出来ることがあれば何でもしようという気になれたのは、切り離され惑星に突入しようとするシャトルの中で、進んで操縦桿を握ったルナの姿を見たからだ。あんな突然の状況で、失敗すれば全員死んでしまうかもしれないのに、一度経験があるというだけで、その重い責任を引き受けたルナ。年上の俺が怖がってばかりはいられないと思った。
 そしてルナの強さと明るさ、何より優しさがリーダーにふさわしいと、ルナをリーダーに推薦したのは俺だ。それが間違っていたとは思わない。ルナはリーダーとしてよくみんなをまとめてくれているし、それに気配りも上手だ。一人一人の仲間をよく見ていて、様子がおかしければ声をかけたりして何かと面倒をみてくれる。昨日も森に出発する前にシンゴのことを気にしていた。
 だけど、最近少し気になる。ルナはがんばりすぎなんじゃないかと。俺たちの元気がないときにはルナが励ましてくれたけれど、ルナの弱音は誰が聞いているんだろう。
「とにかくあそこへ行ってみようぜ。もしかしたら人がいるかもしれないからな」
「ええ」
 木の向こうに遺跡らしいものが見える。そこにはずっとルナに呼びかけているという声の主がいるんだろうか。
 遺跡へと足をむけるルナとハワードの背を見送り、一歩遅れて俺も歩き出す。俺にできることはなんだろう。そう自分に問いかけながら。

終わり

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