第十一話 優しいメロディ

「こ、ここを登るのか?」
 ほぼというよりもまさに垂直にそそり立つ崖を見上げて、ハワードが大きく口を開けた。
「そうだ。あの上に鳥の巣がある」
 メノリの指がはるか高みをさしたのを見て、開きっぱなしのハワードの口から弱々しい声がもれる。
「ウソだろ……」
「卵を食べたいと言ったのは、お前だろうが。行くぞ」
 さすがに軽がるととまではいかないまでも、確実に崖を登っていくメノリを呆然と見送る。
「ウソだろ……?」
 ハワードの口からさっきと同じ言葉がもれ、肩ががっくりと下がった。
 もしかして、あるいは、事によると、ひょっとして、場合によっては……

 僕は役立たずなのかもしれない。

 そんな考えがほんの一瞬だけ、ちらりとハワードの頭をよぎった。

終わり

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