彼には気になっている相手がいた。
友達になりたいと、もうずっと思っているのに、なかなかうまくいかない。
話しかけられないわけじゃない。なにかと声をかけてはいるけれど、それで距離が縮まった例しがないのだ。
その子はいつも一人だった。
いつ見かけてもそうだった。
誰かと話したりしているところや、まして笑顔など見たことがない。
笑えばいいのに。
彼はいつもそう思っていた。笑えばきっと、他のみんなだって話しかけやすくなる。
一人でいる方がいいなんて、そんなのは寂しすぎるじゃないか。
たまに、それも短い時間なら、一人でゆっくりするのもいいかもしれない。だけど、孤独であり続けることがいいことだなんて、彼にはとうてい思えなかった。
人間は一人では生きられないのだ。
だから彼はある日、思い切ってこう言ってみた。
「カオル、君は笑った顔の方がかわいいよ」
ルイの思いがカオルに届くには、あと数年の年月が必要だった。