練習百編、成果おのずから見わる

 鏡に向かって、口の両端を思いっきり上げる。
 目尻も下げて、小首も傾げて。
 良い対人関係を築くために、第一印象は何よりも肝心なもの。それを良いものとするには何よりも笑顔が効果的だ。
 とびっきり魅力的、かつ友好的な笑顔を習得すべく、彼は日々努力を重ねていた。

 

 日課でもあり娯楽でもあり崇高な使命でもある船内の巡回に今日も出かけた彼は、その日信じられないものを目にした。与えられたデータよりもずいぶんと成長しているが、あれは、あの姿は間違いなく。

「ア、アルデュラムギェットー!!!???」

 突き抜けたのは驚愕か歓喜か。
 待ち望んで待ちわびて千年を過ごしてようやく会えた。
 さあ、今こそ千年の練習の成果を活かす時だ。彼は張り切った。

「スデチッコ。スデチッコ」

 コンピューターサヴァイヴに追われるアルデュラムギェットとその仲間達を救うべく、彼が作り上げた笑顔は、ほとばしる感情も手伝って非の打ち所のない極上のものとなった。
 しかし、彼の千年は報われたのかどうか。
 全速力で走り去るアルデュラムギェットとその仲間達を追って、彼もまた全速力で走ることになった。

 

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