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 コロニーに帰還した彼らに誰もが尋ねた。

「未開惑星での生活は大変だっただろう」と。

 けれど彼らの答えはこうだった。

「確かに不自由なことも多かったが、彼の地には彼の地の良いところがある。あの場所での生活を懐かしく思い出し、時には戻りたいと思うこともある」と。

 その答えに回りの者は、驚きながらも彼らの成長を思い納得した。辛く厳しい生活の中で、彼らはさぞ多くのものを得たのだろう。この文明社会にあってなお、戻りたいと思えるほどに、彼の地での経験は得難く貴重なものであったのだろう、と。

 けれど彼らが戻りたいと言ったのは、もっと即物的で切実な現実があったからである。


「なんだハワード、そのあごは。何段あるんだ。そこにものが挟めるんじゃないのか?」
「メノリこそ、出ちゃいけないとこばかり出てるじゃないか。ドラム缶よりひどいぞ、その体」

「はぁ〜。僕の体も縦に伸びてくれればいいのに、横に膨らむばっかりだよ。ベルもさ、あちこち大きくなっちゃって、レスラーみたいだよね」
「うん……。四角くなったって、よく言われる……」

「四角いならまだいいじゃない! わたしなんて、ほっぺが丸すぎて眼鏡のレンズが4つもあるなんて言われたのよ!? ゴムまりなんて呼ばれてるのよ!?」

「……跳べない……」


 人のいない星で暮らした彼らに、人類最高の発明をあげろと尋ねれば、口を揃えて答えるだろう。

 調味料こそ人類の叡智の結晶であると。

 こしょうの効いたステーキ。砂糖がふんだんにつかわれたお菓子。幾種類ものドレッシングとサラダ。コロッケには何をかけよう。ソース? ケチャップ? はたまたマヨネーズ? お刺身や冷や奴にはやはり醤油を。みそ汁は朝に取ると体に良い……。
 人里に戻った彼らを出迎えた様々な味の洪水に、彼らは歓喜した。味付けといえばかろうじて塩しかなかった生活から解放されたのだ。口に運ぶごとにそれは脳髄を深く貫いて、体に染み渡った。

 もうお腹一杯。
 これ以上食べたらパンクする。
 この一口、この一口で止めなければ。

 そうは思っても欲望を抑えきれないのが、悲しいかな人の性。ましてや身近な人の愛情という世界最高の調味料が使われたそれを残すことなどできるはずがなく。 
 かくして、遭難する前と帰還後の現在では、彼らは一回りも二回りも大きくなっていた。

 ああ、彼の地であれば、彼の地での生活ならば。余計なものを体にため込むなんてことはあり得なかったのに。そんなことしようと思ってもできなかったのに。
 彼の地であれば無理なくこの目の前の欲望から離れることができるのに。

 サヴァイヴに戻りたい。

 窮する彼らの心からの叫びであった。

 けれど一番せっぱ詰まっていたのは、やはり彼女かもしれない。

「あーん。スカートが全部入らないー!!! 今月も厳しいのにー!!!」
「苦学生は大変やな」

終わり

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