「わあ、きれーい」
とある日の朝。掃除をしていたシャアラがあげた声に皆が集まってくる。
「どうしたの? シャアラ」
ルナが尋ねると、シャアラが目をきらきらさせて振り返った。
「ねえ、あれ、何かしら。とてもきれいだと思わない?」
シャアラの指さすその先には、朝露に濡れてきらきら光るもの。細く白い糸が作り上げた細かな図形があった。
「ああ、あれはクモの巣やな」
「クモのす?」
首をかしげるシャアラにチャコはうなずいて説明を続けた。
「そうや。クモは自分の体ん中で作った糸で網を作って、それでえさを捕まえんねん」
「へえ、あれ、罠なんだ」
シンゴが眼鏡に手をかけて初めて見るクモの巣を観察しながら感心した声をあげた。
「クモはいないみたいだから、これは古い巣なのかもしれないね」
「ベルはクモを知っているのか?」
メノリが尋ねるとベルはうなずいた。
「うん。父さんが教えてくれたんだ」
「あんなにきれいな巣をつくるんだもん。きっときれいな生き物なんでしょうねえ」
両手を合わせてうっとりと夢見るシャアラに、ベルは少し顔をひきつらせて、どうかなと小さく言った。
「知らぬが仏っちゅうやつやな」
チャコは肩をすくめて首を振ったが、美しい巣を作る素敵な生き物を想像しているシャアラには届かなかった。
「きゃぁぁぁっっ!!!!」
またとある日の朝。掃除をしていたシャアラのあげた悲鳴に皆がとびあがった。
「どうしたの! シャアラ」
ルナが駆け寄ると、シャアラが涙目で振り返った。
「あ、あそこに、気持ちの悪い虫が」
なるべく見ないようにと指だけでシャアラが示したその先には、丸いからだと八本の足を持った生き物。わさわさとその足を動かしてもそもそと動く様に、シャアラだけでなくみなの背中もざわついた。
「あれが、クモや」
「ええ!?」
嘘でしょうと弱々しくつぶやくシャアラにチャコは重々しくうなずいた。
「あれが、クモや」
「あれが、クモだよ」
ベルもチャコの言葉を肯定する。
カオルがクモをいえの外へ放り出したことにも気がつかず、シャアラの震えは止まらなかった。
それ以来、クモの巣を見つけるたびに、シャアラが全力で取り除きにかかるようになったことは言うまでもない。