≪幼馴染に5つのお題〜質問編〜≫ 03 あのひとが行方不明になりました。どうする?
遙か3 有川兄弟と望美

 幼なじみ同士の性別が異なる場合、遊びの内容はどちらの性別にふさわしい方向に偏るのが一般的なのだろうか。
 よそのことはわからないが、譲たちの場合ままごとや人形遊びをするよりも海や山を駆け回っていることの方が多い。というよりは、ほとんどそうだ。なので、どちらかと言えば男の子よりということになるのだろうか。男の子が二人で女の子が一人なのだから、人数比から考えれば妥当なのかもしれないが、なんだかそれだけが理由なのではないような気もする。
 ともかく今日も譲たちは外で遊んでいた。家に近い山で虫を追いかけたりしていたのだが、そのうちなんとはなしにかくれんぼをすることになった。回りには木立しかないのだから、あまりかくれんぼに向いた場所ではないのだが、鬼ごっこにすると譲も望美も将臣をつかまえられないので、三人がするのはもっぱらかくれんぼだった。

 じゃんけんの結果、最初の鬼は望美となった。望美が100を数える間に譲と将臣は隠れ場所を探さなければならない。
 譲は隠れ場所を探して辺りを見回した。
 といっても選択肢はあまりない。山は広いが、あまり奥へ入ってしまうと鬼が探しきれなくなるので、隠れる範囲はあらかじめ決めてある。結局、木の陰に隠れるしか手段はなく、隠れ場所を探すというのはつまり、木を選ぶという作業でしかなかった。
「いーち、にー、さーん」
 望美が数え始めた。あまり悩んでもいられない。
 どうしようと悩みながらも一本の木に目星をつけた譲は、そちらへ足音を立てないように気を遣いつつ歩き出したのだが、いきなりその肩を掴まれた。

「譲、あそこにかくれようぜ」

 耳打ちをしてきた将臣が指さした方向は、上、だった。
「木にのぼるの?」
 望美に聞かれないように小声で尋ねると、将臣はうなずいて譲の手を引き歩き出した。そうして一本の木の前で立ち止まり、再度上を指さす。

「これなら上りやすそうだろ? あの枝に座るんだ」

 将臣の選んだ木は、それほど高くない位置に太い枝が張りだしていた。幹にもこぶが多く、あの枝にたどりつくのはそれほど難しくなさそうだ。
 けれど譲は首をかしげた。
「でも、すぐみつかっちゃうんじゃないの?」
 確かに上りやすそうだが、その枝の下にはほとんど葉が茂っていない。見上げれば丸見えだ。それに、この木は望美の木からあまり離れていなかったし、なにより二人で隠れれば見つかるのも一緒ということになる。
「大丈夫だ、望美は気づかないから。それに隠れるならこういう木がいいんだよ。この木なら下がよく見えるだろ?」
 見えるのが問題なんじゃないのかと譲は思ったが、将臣が上りだしたので何も言わずに後を追った。望美の秒読みも随分進んでいたので、迷っている時間もなかった。

「きゅうじゅはーち、きゅうじゅきゅー、ひゃーく!」
 数え終わると同時に望美は勢いよく振り返った。そうしてきょろきょろと視線をめぐらせると、あちこちの木陰をのぞき始めた。

「な、上なんか見ないだろ?」
「うん」

 将臣の言葉に返事はしたが、譲の視線は下を向いていた。木陰をのぞき込んではがっかりして肩を落とす望美から目を離さなかった。
 ここは上からも下からも見通しが良すぎる。だからすぐに見つかってしまうだろうと、将臣に誘われたときは気が進まなかったのだが、今は逆に早く見つかればいいのにと譲は思っていた。二人いっぺんに見つかってしまうことになるので、将臣と譲のどっちが鬼になるのか決め直さなければならないが、そんなことはどうでもいい。将臣が渋ったら自分が鬼になってもいいとすら譲は思った。譲が鬼になると年長の二人にからかわれ、遊ばれてしまうので、譲は鬼役が好きではなかったが、それでもいいのだ。

 早く、早く上を見て。そうすればすぐに見つかるから。

 けれど望美はうろうろと木の間を歩き回るだけで、上を見ようとしない。そして探しても探しても二人の姿がないことに、だんだんと望美の顔が曇ってきた。
 不安げな望美の様子に譲の鼓動も速くなる。
 隠れ場所と決めた範囲に立つ全ての木の回りを見て回っても、二人の姿がみつからず、とうとう不安に耐えきれなくなったのか、望美の顔がくしゃっとゆがんだ。
「のぞ…」
 望美ちゃんここだよ、と譲は叫ぼうとしたのだが、望美の様子を見ていたのは隣に座っていた将臣も同じだった。譲が声をあげるより早く、将臣はすばやく枝から降りてしまった。

「望美!」
 上から降ってきた将臣に望美は相当驚いたようで、しばらく目を丸くして口を開けたまま何もしゃべらなかったが、やがてぱっと顔を輝かせて将臣の名を呼んだ。
「将臣くん! どこに隠れてたの?」
「あの上」
 将臣の言葉に望美はようやく視線を上へと向けた。そうして枝に座った譲を見つけ、望美はまた目を丸くした。
「譲くんも! そんなところにいたの?」
「お前、全然気づかないんだもんな」
「だって、上なんて見ないもん」
 将臣と言い合う望美の声にはすっかり元気が戻っていた。

 二人の小競り合いを聞きながら譲は木から下りた。なぜか体がひどく重かった。
「次は将臣くんが鬼だよ!」
「は? お前見つけられなかっただろ?」
「降参って言ってないもん」
「しょーがねえなあ」
 頭をかきながらも望美の言い分を認めた将臣と、得意げに笑う望美の所まで歩いていく。譲に気づいた望美が譲にも笑顔を向けた。

「譲くん、次は将臣くんが鬼だからね」
「うん……」

 嫌いな鬼にはならずに済んだのだが、譲は望美と同じようには笑えなかった。

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