「女ってほんと甘いもの好きだよな」
久しぶりのデート。食事の後に運ばれてきたチョコレートケーキにうきうきフォークを向けたところで聞こえてきた、あきれたようなヒカルの言葉。せっかくいい気分だったのにとあかりは口をとがらせた。
「ヒカルだって甘いもの好きじゃない」
「そーだけどさ」
あかりの言い分を認めながらもヒカルは肩をすくめた。
「飯くった後にアイスやらケーキやら食べたいとは思わないぞ」
あんだけ食ったのにどこに入るわけ? なんて首を振りながら食後のコーヒーを口に含むヒカルの姿に、あかりは吹き出すのをこらえる表情になった。
海へ行けばかき氷、お祭りならわたあめやりんごあめ、誕生日やクリスマスにはケーキと、甘い甘いお菓子達に、ついこの間まではあかりより目を輝かせていたくせに、そんなことは忘れましたと言わんばかりの態度がおかしかったのだ。
「やっぱデザートがないと物足りないわけ?」
「え?」
自分よりも下にその顔があったころのヒカルを思い出していたので、あかりはヒカルが何を言ったのか聞きそびれてしまった。フォークを持ったままきょとんとしていると、ヒカルはコーヒーカップを持ったままで苦笑した。
「だから、やっぱり食事はデザートつきの方がいいのかって」
「あきれてたんじゃないの?」
ケーキには手をつけないままあかりがすねた口調でそう返すと、ヒカルはついと視線をあかりの顔からそらした。
「そうだけどさ、やっぱその、次の時の参考にさ」
あかりの顔を見ないでほとんど口の中だけでぼそりとつぶやかれたその言葉を、あかりは聞き逃さなかった。
「うーんそうだなー」
首を少し傾けて、ゆるみそうになる口元を抑えて、考えている振りをして。
そうしてあかりはヒカルの問いに答えた。
「やっぱり食事は『ヒカルつき』が、いいな」
「は?」
眉をよせたヒカルの視線があかりに戻った。あかりは自分を見ているヒカルに先ほどの答えを補強する。
「やっぱりそれがないと物足りないよ?」
ヒカルは少しの間ぽかんと口を開けていた。けれど、すぐにその口元がゆるむ。そしてヒカルはコーヒーカップをソーサーに戻してテーブルの上にひじをつき、あかりの方へ少し身を乗り出してきた。
「デザートがなくても、いいわけ?」
行儀が悪い姿勢になってしまうのだけれど、あかりも同じように身を乗り出して即答した。
「うん。ヒカルつきならデザートなしでもいいよ」
参考にしてね、と視線を合わせて続けると、ヒカルは片手を挙げてうなずいた。
「了解。しっかり参考にさせてもらう」
まだ手のつけられていないケーキをはさんで、二人は同時に微笑んだ。
「でも、デザートつきならさらに嬉しいな」
「……了解」