今朝はいつもより念入りにお化粧をした。
だけど、どれだけ手がかかっているのか、きっと彼は気づかない。
わかっているのに、やっぱり期待してしまう。顔を合わせたら何と言ってくれるだろうかなんて、そんなことを考えながらヴァージニアは食堂へと降りていった。
「おっ! リーダー、今日は気合入ってるじゃねえか」
「口紅を変えたんですね。よく似合っていますよ」
女性に対する観察眼は一級品(本人談)のギャロウズと、いつもそつと隙のないクライヴはちゃんと気づいた。笑顔で迎えてくれた二人に、ヴァージニアも笑顔を返す。
社交辞令でお世辞だと知っていても、やっぱり嬉しい。女の子はかわいくきれいでいるために、いつだって努力をしているのだ。努力の内容は女の子の秘密だし、努力の最中を見られるのもまっぴらだけれども、努力の結果はちゃんと認めて欲しい。
勝手かもしれないが、それが女の子というものだ。
そこのところをあいつはちゃんとわかっているのだろうか。
ヴァージニアがご機嫌で席についたところに、ジェットが降りてきた。彼は寝起きが悪い。寝癖の残った頭をかき回しながら三人のいるテーブルの方へ歩いてくる。
おはようと声をかけた三人にうなずきを返したジェットだったが、その視線がヴァージニアの顔でぴたりと止まった。眉間に深くしわを寄せ、そのままヴァージニアの顔を凝視する。
「なあに? 私の顔に何かついてる?」
ジェットに注目されている。
それだけで期待に顔を輝かせながらヴァージニアは尋ねた。年長の二人はジェットの表情に不吉なものを感じ、口元をひきつらせているのだが、ヴァージニアはまるで気づかずジェットの答えを待った。
やがてジェットは眉をひそめたまま口を開いた。
「お前……、なんか顔が違うぞ」
ギャロウズは片手で顔を覆って天を仰ぎ、クライヴは開いていた新聞に顔を埋めた。
悪い予感ほど当たるというもの。というか、今回は予感というよりほぼ確信だったのだから、ジェットの口をどうにかして封じるべきだったのだろう。ヴァージニアがあれだけ期待して待ち受けていた以上、それは不可能だったかもしれないが、それならばそれで手を打つべきだった。年長者として配慮が足りず、ふがいなかったかもしれない。
これはせめて穏便に事態を収拾しなければ。
「あー、そのですね」
そんな責任感から口を挟んだのはクライヴだったが、彼のセリフはそこまでだった。
「気づいた!」
ヴァージニアが髪と声を弾ませてそう言ったからだ。
「はぁ?」
三人の男の口から同時に息が漏れた。調子はそれぞれ違えども、どれも困惑の色を帯びている。
怪訝そうな男達をよそに、ヴァージニアは一人ご機嫌だった。最初に年長組の二人に褒められたときよりご機嫌だったかもしれない。
「そっか。ちゃんと気づくんだ。そっかそっか」
ちゃんと見てるんだとうきうきつぶやいて、ヴァージニアは朝食のメニューを次々選んでいった。
「なあ……、あれでいいのか?」
「本人がいいのだから、いいのでしょう」
力なく言葉を交わす年長組の横で、ジェットは一人訳が分からず、不機嫌そうに眉間のしわを深くした。