「冷えると思ったら雪だ……」
窓の外の様子にファラが声をあげた。
「雪景色ってやっぱりロマンチックだよね」
はしゃぐファラの後ろでリッドは顔をしかめた。
「雪なんて寒いだけじゃねーか」
「もう、ムードないなあ、リッドは」
目は雪を追ったままファラは不満げに鼻をならした。
「雪の日に好きな人と暖かい部屋で話をするのは、とても素敵な気分だってメルディも言ってたんだから」
「ふーん」
気のないあいづちをうちながら、リッドは後ろからファラの体に手をまわし、頭をファラの肩にのせた。
「なんて言って欲しい?」
「重たいよ、リッド」
ムードがないと不満を言っておきながら色気のない返答をするファラに、リッドはただ、さっきの言葉を繰り返す。
「なんて言って欲しい?」
耳元で聞こえる声がくすぐったくてファラは少し体をすくめながら、今度は思案の顔になった。そして変わらず雪を見ながら答えた。
「ファラ」
「は?」
ファラの口から出たファラの名前にリッドはその肩から顔を上げた。
「なんだって?」
「だから、ファーラ」
ようやく雪から目を離し、リッドの顔を見上げてファラは笑った。
「ほらほら早く言って」
催促したらまた窓の外の雪を追い始めた緑の髪に額をあてると、リッドは軽く笑ってゆっくり口を開いた。
「ファーラ」
少し高い声で上をむいて。
「ファーラ」
少し照れながら。
「ファラ」
回した腕に力をこめて。
「ファラ」
雪とともにゆっくりと降っては積もる自分の名前に、ファラは素敵な気分を充分に味わった。